オタクを愛国戦士にフライングゲットしたい習政権
中国共産党は2012年の習近平政権の成立前後から、国内のネット世論やオタク層に向けても政治宣伝の幅を広げるようになり、ネットスラングを使ったプロパガンダやネットミームを使った「バズり」型の情報拡散を積極的におこなうようになった。
一時期、習近平のネットスラング風のあだ名「習大大」の流行が図られたり、ネット上の神動画職人を装った「朝陽工作室」なる組織が習政権の腐敗摘発キャンペーンを描いたアニメ動画を投稿してバズらせたり、党中央党校が習近平礼賛アプリをリリースしたりしたのがこの典型だ。本記事冒頭のCCTVの特集番組『スゲえぞ、わが国』も、全体的に同様の文脈を意識しているきらいがある。
SNH48の『歌唱祖国』カバーも、こうした中国共産党のオタク取り込み作戦と、AKSとの手切れ後に中国国内市場での生き残りを賭けた運営会社の思惑が一致し、生み出されたものと見ていいだろう。
ところで、愛国プロパガンダに熱心な習近平政権の工作対象たる中国のSNH48ファンはどんな人たちなのだろうか? 今年7月ごろに上海のSNH48星夢劇院にチームXのライブを見に行った日本人駐在員のF氏は、筆者の取材にこう語る。
「30代くらいの男性が多い感じでした。ファッションは上海の街を歩いている同年代の中国人よりもダサい印象で、体型も小太りの人が多くて汗臭い感じ。日本のAKB48の握手会の動画などで見る人たちと、そっくりなイメージの人が多かったですね」
「彼らは日本は好きな人たちみたいです。壇上のメンバーもお客さんも全員が中国人なのに、曲の合間の合いの手が『かわいい、かわいい、超かわいい!』と日本語だったのはびっくりしました。起立禁止や撮影禁止といった会場ルールはみんなしっかり守っていて、着席のままで『オタ芸』をやっていた。マナーはすごくよかったですね」
アイドルオタクは万国共通。愛国戦士になるにはモヤシっ子すぎる気がしてならないのだが、そんな平和的極まりない人たちにもプロパガンダの矛先を向けるのが、現代の中国共産党の容赦のなさであると考えるべきかもしれない。
推しメンバーを愛するのと同じくらいのテンションで、「スゲえ祖国」を愛することができるのか? 中国のアイドルオタクたちの未来に注目である。