文春オンライン

子育てにおける「お姉さん」と「おばさん」の境界線問題

礼節は弱者の武器

2017/08/10
note

後から何を言っても始まらない、北朝鮮のミサイルみたいなもの

 しかも、もうすぐ4歳の末っ子はまだ「おばさん」と「おばあさん」の違いがしっかり分かっていません。博物館で展示物を案内してくださった女性に対して、うっかり末っ子がはっきりとした滑舌で「おばあさん、そこに立ってると前が見えないよ」と悪気のない率直な申し入れをしたとき、案内してくださった女性の顔色がぐんぐん変色していくのは見ていてつらいことです。親として、フォローのしようがありません。恐らく最適解は「聴こえなかったふりをする」ことなのでしょうが、こちらもおそらく顔色が変わっているはずなのです。この気まずさは筆舌に尽くしがたいものがあります。

©iStock.com

 幼稚園や習い事で一緒になるママ友の皆さんに対しては、子供に必ず「誰々ちゃんのお母さん」と呼びなさいと指導しています。見た目の年齢で女性に声をかけることのむつかしさは、最近の育児事情もありますが、若くしてご出産されたママもいれば、高齢出産でいろいろしんどそうなママもおられます。呼称問題は非常に非常にデリケートなのです。

ADVERTISEMENT

 実際には、子供は子供なりに親の年齢を見て理解した通り喋ってしまうことが数多くあります。それは親同士が同席している状況で子供たちから繰り出される「みどりちゃんのお姉さん」と「たくまくんのおばさん」という表現であり、結論としてたくまくんのお母さんは顔色がぐんぐん変色していくことになります。こちらも青くなっていたたまれない表情をするほかないのです。お通夜のようです。もちろん帰ってから「そういうことは言うものではない。ちゃんと『誰々ちゃんママ』とか『誰々ちゃんのお母さん』って言ってあげなさい」とお説教はするわけなんですが、これはもう北朝鮮のミサイルみたいなもので撃ち込んじゃったんだから後から何を言っても始まらないだろうということで、国際的な圧力をかけて北朝鮮を黙らせるのと同じ構造で子供たちに「そういうことを言ってはいけません」と伝えることになるのです。