欧州最大となる人口1200万人を擁するモスクワ。昨年発表された新興都市ランキングでは北京やイスタンブールなどを抑え1位に輝き、東欧圏で今最も開発スピードに勢いのある街に選ばれている。
プーチン大統領の側近セルゲイ・ソビャーニン市長
その原動力となっているのが2010年からモスクワ市長を務めるセルゲイ・ソビャーニンだ。プーチン首相時代には、副首相と官房長官を兼任したこともあり、辣腕政治家として知られる。
彼が就任してからというもの街は大きく様変わりした。歴史的建造物の修繕、公園の整備や街の緑化、モスクワの外周を結ぶ都市環状鉄道の開通、中心部の道路の駐車有料化による渋滞緩和、駅前を不法占拠していた店舗の撤去など、ソ連崩壊から20年以上が経ちながらいまだ旧態然とした街並みや悪しき慣習が残っていたモスクワの近代化を一気に推し進めている。
街が便利になりきれいに生まれ変わったと一定の評価は得ているものの、その一方で、市民を置き去りにしたあまりに急激な変革や、ときに冷酷で強権的な手法に批判を浴びることも多い。十分な議論や説明がなされないまま生活のあらゆることが刷新されていく。街中いたるところで大規模工事が進行中で、空気も足元も悪く、スピード優先のあまり突貫工事で粗悪な施工も目立つ。そんなとき市民の口からしばしば漏れ聞こえるのが「ソビャーニンスカヤ」という言葉で、「ソビャーニンの野郎、よけいなことしやがって」と意訳されるわけだが、市民の平穏や残すべき古き佳き部分をも一緒くたにぶち壊す“破壊者”としてすっかりイメージは低落してしまった。
モスクワ市民を右往左往させる「リノベーション問題」
破壊者たるイメージを決定的なものにしたのが、今モスクワ市民の一大関心事となっているリノベーション問題である。
ソ連時代に建造された築50年を超える低層アパートの老朽化が進み、その建て替えプログラムを今年2月にモスクワ市が発表したのだが、その内容があまりにもひどく、激しい反対運動を巻き起こすことになった。
本来であれば住み替えを促す救済プログラムであり歓迎されるべきものだ。壁や天井が崩れ、水回りも手のつけようのないほど荒廃した住居に暮らし、助けを必要とする人々は少なからずいて、そうしたアパートがなくなれば街の景観もよくなるはず。ではなぜ反対運動が起こったのかというと、条件を定めた法律が市の都合で改悪されたからだ。