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反対運動を行なった著名俳優が放火され死にかけた
デモの参加者たちからも過去にあった行政の黒い部分の話を次々と聞かされた。
高齢者に言葉巧みに取り入って承諾書にサインを書かせる──。耐久性診断の結果を改ざんして邪魔な建物を解体へと持ち込む──。反対運動に参加していたところ、ある日上司に呼ばれ、職を失いたくなかったらやめるようにと圧力をかけられた──。住民説明会に行くと、明らかに住民ではない人たちで会場が埋め尽くされていて、反対派は満員を理由に入場を断られ、会は「異議なし!」で終了した──。インターネットで行なわれる住民投票で、最終日の夜半に反対派が圧倒的多数だったにもかかわらず、最終結果は不自然な形で逆転されていた──。その昔、ある省庁が周辺の建物を接収しようとしたことに対し反対運動を行なった著名俳優が別荘にいるところを放火され死にかけた──。
やり口は完全に地上げ屋のそれである。
「計画は2032年までに完成予定」
8月1日、モスクワ市は住民投票の最終結果を発表した。それによると5144棟が賛成多数によりプログラム参加となり建物の解体が決まった。反対多数でプログラムから離脱したのは464棟にとどまった。ソビャーニン市長は「計画は2032年までに完成予定ではあるが、できる限り早期の実現を目指す」とさらなる意欲を見せた。ソビャーニンの辣腕ぶりとなんでもありの行政が組み合わさったとき、モスクワの街は一体どうなってしまうのか。市民の不安が尽きることはない。
写真=栗田智