監督は人を立てるのがとてもうまいんです。僕は『シェイキング東京』でエキストラへの指示出しをしましたが、ロケ地が坂道でエキストラをさばくのは大変でした。なんとか撮り終えた後、監督が僕に「This is your shot.」と声をかけてくれたんです。「このカットは君のおかげで撮れた」。これまで一緒に仕事をした監督から、そんな風に言われたことはなかったので、ちょっと感動してしまいました。
ポン・ジュノ監督の脚本料の使い道
「この監督はすごい」と心から感じたのは、作品にかける「姿勢」です。『シェイキング東京』は、セットではなく空き家で撮影したので、監督が思い描いていたカットを撮るには、勝手口を玄関にしなければなりませんでした。しかし、勝手口を玄関に見せるには美術費用がかさむので、プロデューサーが「ちょっと、予算が……。何とかなりませんか」と渋りはじめました。しかし、監督は穏やかに「私がお金を払いますから、やりましょう」ときっぱり断ったんです。結局、プロデューサーも「監督がそこまでいうなら」と、監督の言う通りに撮影することになりました。こうした監督の「男気」に、僕は感銘を受けました。
日本ではヒットメーカーと呼ばれる監督でも、大作になるとバックにスポンサーやテレビ局がつき、作品をコントロールできなくなる。でも、ポン・ジュノ監督は、自分の理想に向かって全てをコントロールしようとしていたし、それが上手くいっていた。「こういう監督になら、なってみたい」。そう思ったんです。もし、ポン・ジュノ監督に出会っていなかったら、僕は映画を作ることをやめていたと思います。そういう意味で、監督は僕にとって恩人なんです。
監督の映画に対する姿勢は今も変わっていません。『オクジャ/okja』(17年)で、予算が足りないからニューヨークロケが出来ないと言われたときは、監督は自分の脚本料の一部をロケの費用に充てたと聞きました。奥さんには内緒だったそうです(笑)。
もっとこの監督のもとで映画を学びたい。そんな思いで、ノーギャラで良いからと頼み込んで、助監督をしたのが『母なる証明』でした。
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「文藝春秋」4月号(3月10日発売号)および「文藝春秋 電子版」に掲載中の片山監督のインタビュー「『パラサイト』を観て悔しくなった」では、助監督経験者だから分かった『パラサイト』での効果的な演出、ポン・ジュノ監督からのメール、韓国映画にあって日本映画にないものなどについて語りつくしている。
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アカデミー賞4冠『パラサイト』を観て悔しくなった