『パラサイト 半地下の家族』が世界中の観客を魅了している。カンヌ国際映画祭で韓国映画として初の最高賞パルムドールを受賞、さらに第92回アカデミー賞で最多の4部門(作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞)を受賞。中でも作品賞受賞は、非英語映画初の快挙だ。
日本の映画監督の中で、唯一、ポン・ジュノ監督の助監督を経験した人物がいる。
昨春、『岬の兄妹』で自閉症の妹と兄の貧困や性を大胆に描き、「2019年最大の衝撃作」と話題をさらった片山慎三監督(39)だ。
ポン・ジュノ監督の『TOKYO!〈シェイキング東京〉』(08年)、『母なる証明』(09年)の2作で助監督を務めた片山氏に、ポン・ジュノ監督の「創作の秘密」を語ってもらった。
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これは、ポン・ジュノ監督が『母なる証明』の撮影に際して描いた絵コンテです。
日本でも世界でも、これほど緻密に、全カットのシーンを描く監督は珍しいと思います。
『パラサイト』ではiPadで絵コンテを描いたそうですが、当時はまだ手描き。カメラの画が変わる1コマ、1コマを詳細に、まるで漫画のように描いていました。日本では、アクションなどの一部のシーンの絵コンテを描く監督はいましたが、全てを描く監督は初めてで、新鮮な驚きを感じました。
「このカットは君のおかげで撮れた」
『パラサイト』の脚本と絵コンテは本になっていて、昨年11月に監督にお会いした時にいただきました。映画の全場面に加え、『パラサイト』で描かれる裕福な家の断面図や、あるシーンでは登場人物の「血」がどのように役者にかかるかに至るまで、役者、スタッフの全員とイメージを緻密に共有していて、撮影前にここまで細部を作り込むのかと驚かされました。
僕は10代の終わりからテレビドラマの現場に入り、04年頃から助監督の仕事をするようになりました。その頃、日本ではテレビと映画の垣根がなくなり、映画がテレビドラマよりも低予算、短期間で作られることも珍しくなくなっていました。このままでは映画はダメになる。自分は映画を続けるべきか真剣に悩んでいました。
韓国人の友人が『シェイキング東京』の現場に誘ってくれたのは、そんな時でした。