最近、社会の根幹を揺るがしかねない数字や統計の操作がいくつも明らかになっている。
例えば、厚生労働省が毎月勤労統計調査の不正を行い雇用保険が過少給付されたり、GDP(国内総生産)の算出方法を変更しあたかも経済成長が続いているように見せかけたり、認可外施設を利用する子どもを“待機児童”から外すことで、待機児童数ゼロをアピールする自治体など、枚挙に暇がない。
「数学の理解力と論述力」が低下している
こうした例に警鐘を鳴らすのは、桜美林大学教授の芳沢光雄氏だ。
「なぜこのように、数字の結果だけ整えばそれでOKというようになってしまったのか。それは日本人の『言葉の定義から始まるプロセスを大切にする数学の精神』が形骸化してきたからです。
私は現在、数学の大切さや面白さを学生たちに伝える教育活動に力を入れています。
出前授業や教員研修会など、25年近い数学教育活動の中で、全国400カ所以上を回りました。その活動を通して感じたのは、『数学の理解力と論述力』の低下です」
2億円は50億円の何%?
芳沢氏は昨年、『「%」が分からない大学生』(光文社新書)という本を刊行した。著書の中で、日本の生徒や大学生の、数学の理解力と論述力の著しい低下と数学教育の欠陥を指摘している。
「『%』がわからないというのはどういうことなのか。例えば、次のような簡単な問題があります。
Q 2億円は50億円の何%ですか。
2を50で割った商の0.04を百分率に直した『4%』が答えです。
非常にシンプルな問題ですが、15年ほど前から、このような基本的な割合の問題に答えられない学生が増えています。他大学の教員の話を総合すると、平均的な私立大学文系学部の学生の2割は間違えます。最も多い間違いは、50を2で割って、25%とする誤答です」