振り返ってみれば、人生の中でたった6年間に過ぎない日々。名門中高卒の肩書き、それは勲章だろうか、それとも烙印だろうか。

 今ではもう、あの制服も校章も身につけることはない。卒業後、名門校のブランドを剥がされ、生身で勝負する人生。その中でもがきながら、同級生たちからは遅れて、あるいは離れて、社会に「居場所」を見つけた“アウトロー”たちがいる。

 それは親や先生たちが期待していたような進路ではなかったかもしれない。だが、彼らが放つ規格外の魅力こそが、名門校の懐の深さを示しているようにも感じる。――そんな“アウトロー卒業生”に話を聞いた。(全3回の1回目/#2に続く

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 森林原人、40歳。現代最も活躍するAV男優の一人としてあまりにも有名な彼は、変装するわけでもなく、明るいピンクのシャツにジーンズ、端をわざとほつれさせたグレンチェックのダメージジャケットという、絶妙に洒落切ったいでたちで現れた。緑の幾何学プリントが施されたコートを傍に置き、ショッキングピンクのネクタイを締めながら「アウトロー感、出てますか?」と周囲を笑わせる。

 

 男性スタッフが「いつもお世話になっています」と冗談交じりに挨拶するほどに、彼のAV出演作は数知れない。約20年に及ぶ長いキャリアで、絡んだ女優の数は約1万人。一般人が100回転生しても到底成し遂げないであろう経験数を持つこの男は、実は「筑駒(ツクコマ)」の出身だ。

筑駒からAV業界へ進んだ男

 筑波大学附属駒場中学校・高等学校。1学年約160名(中学募集が120名、高校募集が40名)と、学校の規模は小ぶりながらも、2019年にはなんと120名もの生徒が東大に合格している。そんな、偏差値70どころか80とも90ともいわれる日本の最難関国立中高一貫男子校を卒業して、AV業界へ進んだというから驚きだ。

東京大学 ©iStock.com

 同級生たちは軒並み東大へ進学して、官僚に、医者に、弁護士に、そして超一流企業勤めのサラリーマンにと、エリートコースを真っ直ぐ歩んでいる。おそらく、いや確実に、森林は筑駒の開学以来ただひとり輩出されたAV男優だろう。

 2016年に刊行された森林の著書のタイトルは『偏差値78のAV男優が考える セックス幸福論』である。順当に行けば、彼もまた何不自由ない人生を約束されていたはず。それなのになぜ、森林は敷かれたレールを飛び出したのか。