オンラインゲームやダンスをしながら
「私は息子の教育のことを考えて残ることにしました」
そう話すのは、マニラの商業都市、マカティ市に住む丸橋典子さん(48歳)。息子は高校3年生で、インターナショナルスクールに通っている。大学入学の準備があるため、日本に帰国して再入国できなくなる可能性を考え、フィリピンにとどまることを決めたという。
駐在員の夫は建築関係の日系企業に勤めている。しかし、製造業を中心に多くの日系企業が操業を中止したように、建設現場も稼働していないため、夫はパソコンを使った在宅勤務にシフトしている。丸橋さん自身は、テニスや合唱クラブなどに所属し、ほぼ毎日出掛けていたが、マニラ封鎖以降は自宅で過ごす時間が増え、オンラインゲームや「ズンバ」と呼ばれるダンスエクササイズなどをしながら過ごしている。
そんな丸橋さん一家は、運転手付きの車を保有しているため、公共交通機関の停止による影響はほとんど受けていない。それどころか、ジプニーの排気ガスがなくなって空気がきれいになり、夜空には星が輝いていると驚く。食材の買い出しは、住んでいるコンドミニアムから徒歩圏内のショッピングモールで済ませており、「最低限生きていく分には特に不便を感じていない」という。
フィリピンに残った日本人同士による情報交換も活発に行われ、そのLINEグループには400人以上が参加している。
「デリバリーをやっている飲食店や子供のミルクが売っている店などの情報を共有しています。大統領の会見など政府発表のタガログ語が分からない場合は、できる方が内容を訳してくれます。みんなで助け合っています」
もし自分や家族が感染したら……
だが、万一のことを考えるとおちおち過ごしてもいられない。マニラ首都圏でコロナ感染者の治療に当たってきた複数の病院が、病室や医療スタッフの不足から、新規の入院患者を受け入れることができなくなった。医師も9人がコロナ感染で死亡している。これ以上拡大すれば、医療崩壊につながりかねないと、丸橋さんは不安をのぞかせている。
「もし自分や家族が感染したら、フィリピンの病院は日本よりも患者を受け入れてもらえなそう。イタリアみたいな医療崩壊は懸念事項です」
このまま封鎖が続けば、収入が途絶えた運転手や飲食店の従業員など庶民の我慢もいつまで持つか分からない。生活が困難になれば、暴徒化の危険性もあるだろう。丸橋さんが言葉を継いだ。
「今のような締め付けが続けば、治安の悪化を招く可能性があります。庶民が暴徒化すれば、日本人はお金を持っているとして襲われるかもしれない」
マニラ封鎖はどこまで実効性をともなっているのか、今のところは未知数だ。期限は4月14日。ドゥテルテ政権の徹底ぶりとは裏腹に、今も尚、刻一刻と感染者は増え続けている。