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2020/04/03

命の瀬戸際に追い詰められた患者を騙す

 現在、自由診療で行われている免疫療法は、「ANK療法」「活性化リンパ球療法」「樹状細胞療法」「ペプチドワクチン」「ネオアンチゲン」など多種多様だ。基本的には、患者の血液からリンパ球を取り出して免疫細胞を培養・活性化して戻す方法をとる。

 一方、2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した、本庶佑氏(京都大学高等研究院副院長・特別教授)の研究による、免疫チェックポイント阻害剤・オプジーボも、免疫療法と呼ばれる。がん細胞は免疫細胞の働きにブレーキをかける作用で自らを守っているが、オプジーボはそのブレーキを解除して、がん細胞を死滅させる。高い有効性が臨床試験で証明されたので、保険適用になった。紛らわしいのだが、同じ「免疫療法」という名前でも、両者はまったく似て非なるものなのだ。

本庶佑・京都大学特別教授

 10年ほど前、私は自由診療の免疫療法についての取材を始めた。命の瀬戸際に追い詰められた、がん患者を騙す医者がいる、という現実に衝撃を受けた。

 日本の医療界や厚労省は、この問題を知りながら、見て見ぬふりをしている。免疫クリニックの行為は、医療モラルに反しているが、医師には裁量権が認められているので厳しく規制できないからだ。

免疫療法クリニックと闘う大学教授

 こうした中で、自由診療の免疫療法について、注意喚起を行ってきた医師がいる。がん治療の専門家・勝俣範之教授(日本医科大学・腫瘍内科)だ。

 勝俣教授は、オウム真理教による地下鉄サリン事件(1995年)に巻き込まれ、九死に一生を得た。それ以来、一心に患者に尽くすことを決めたという。

 そして、彼にとって決定的な出来事があった。自分の患者が、亡くなる前日まで這うように免疫クリニックに通院していたと、家族から聞かされたのだ。

「ほとんど動けない患者から金を取るなんて、そこまで非人道的なことをやるのかと。その時、免疫クリニックの医者を絶対に許さないと決めました」(勝俣教授)

 勝俣教授はSNSなどを使い、自由診療の問題について、積極的に情報発信を始めた。これに文句をつけてきたのが、前述の石井院長である。