「Rakuten Medical ガン克服 生きる」

 スーパースター、アンドレス・イニエスタが着るJリーグ、ヴィッセル神戸のユニフォームの左鎖骨にある広告の意味がわかる人はまだ少ないかもしれない。

 ネット大手の楽天が出資する楽天メディカルは、元々、アスピリアン・セラピューティクスという米西海岸の医療ベンチャーだった。その会社に2018年、楽天会長兼社長の三木谷浩史が個人で約167億円を出資。2019年7月には、楽天も1億ドル(約107億円)を追加出資して社名も「楽天メディカル」に改めた。

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医療ベンチャーの楽天メディカル ©共同通信社

 楽天メディカルが取り組んでいるのが「光免疫療法」という画期的ながん治療法である。ノーベル賞を受賞した本庶佑らが開発した免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」に次ぐ、新たながん治療法として国も期待を寄せており、4月8日に楽天メディカルが「頭頸(とうけい)部がん向け光免疫療法が厚生労働省の『先駆け審査指定制度』の対象に指定された」と発表すると、楽天の株価は6日連続で上昇した。

なぜ楽天ががん治療に取り組むのか?

「光免疫療法」の生みの親は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の主任研究員の小林久隆。その画期的な研究成果はバラク・オバマ大統領が一般教書演説で絶賛したほどだ。

 なぜネット企業の楽天ががん治療に取り組むのか。きっかけは三木谷の父親、経済学者の三木谷良一ががんを罹患したことだった。後期すい臓がんだった良一はすでに、従来の治療法では対処できない状態だったが、三木谷は良一を救いたい一心で英語の学術論文を読み漁り、世界中の名医を訪ねた。

三木谷浩史氏 ©文藝春秋

 その末にたどり着いたのが小林の「光免疫療法」だった。共通の知人を通じて小林に会い、説明を聞いた三木谷は直感的に「これはいける」と確信した。「なぜ治るのか、ロジカルに納得できた」(三木谷)のだという。

 それは「興銀時代にインターネットと出会った時とよく似た感覚だった」と三木谷は振り返る。インターネットの存在を知った時、三木谷は「これで世界は変わる」と確信し、興銀のキャリアを捨てて起業した。インターネット・ショッピングの楽天市場を立ち上げた時も、「現物に触れられないインターネットで物は売れない」と笑われたが、三木谷には人々がパソコンの画面でショッピングを楽しむ未来が見えていたという。光免疫療法に出会った時、まさにそれと同じ感覚を覚えたのである。