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人体に無害な光線でがん細胞のみを狙う

 光免疫療法で使う薬は、がん細胞(抗原)の表面にある突起物だけに結合する特殊なタンパク質(抗体)に、近赤外線に反応する光感受性色素「IRDye® 700DX」を混ぜた複合体だ。この複合体を静脈に注射すると、全身を駆け巡った抗体が、がん細胞を見つけてドッキングする。そこに近赤外線を当てると、IRDye® 700DXが反応し、がん細胞の細胞膜を傷つける。その傷口から水が入り、がん細胞はものの1、2分で膨張し、破裂するのだ。

「近赤外線光線はテレビのリモコンで使う光線で人体には無害。抗体もタンパク質なので、がん細胞以外の正常細胞は傷つけません」(小林)

小林久隆氏 ©時事通信社

 正常な細胞を傷つけて患者にダメージを与える手術や抗がん剤、放射線治療とはそこが根本的に異なる。

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 皮膚がんや頭頸部がんの一部のように患部が体表面に露出しているがんの場合はペンライト型の光源で光を当て、深部がんには円筒型の光源を使う。深部がんの場合は、楽天メディカルにおいてCTガイドや超音波ガイド下で患部に針を刺入する方法を開発している。

 良一は2013年11月に亡くなり、光免疫療法の開発は間に合わなかった。だが三木谷は「この画期的な治療法を早く患者さんに届けたい」と事業化を決意し、楽天メディカルを設立した。

 光免疫療法は最終段階の治験が国内外で2021年に終了する予定だ。順調に進めば2022~23年ごろの承認が見込まれる。 

文藝春秋10月号

「文藝春秋」10月号では、三木谷氏や小林氏へのインタビュー、光免疫療法の詳しいメカニズムなどについて取り上げている。