「欧米並みのロックダウン」は日本で可能か
私が懸念しているのは、今回の「緊急事態宣言」の影響そのものよりも、この宣言の効果が薄かった場合、「政府はさらに強権的な対応をとるべきだ」と世論が盛り上がることです。
SNSなどネットでの議論を見ていても、罰金などの規定を科す欧州のような厳重な都市封鎖(ロックダウン)や、一般市民の管理・監視を強化するよう求める声もあがってもおかしくありません。医療の専門家からも医学、公衆衛生上の観点から悪意なく強力な都市封鎖こそが重要だという声も聞こえてきます。
「欧米並みのロックダウン」を実際に行う場合、政府としてどういう対応がとれるかは不明確ですが、思いつくシナリオは2つ考えられます。
ひとつは、自衛隊の活用。自衛隊法にもとづいて自衛隊の「治安出動」が発令されることです。東京都が4月6日に自衛隊の派遣要請を行いましたが、これはあくまでも「災害派遣」。治安出動はさらに強力なまったくの別物です。これまでも学生運動が過激化した時代やオウム真理教事件に際して検討されましたが、その影響力の大きさや日本における過去の歴史的経緯もあり、過去に発令された例はありません。
発令された場合には、東京都、とくに23区を封鎖すべく武装した自衛隊が街を囲むような事態も想定されるでしょう。もちろん治安出動の念頭にあるのは内乱のような事態ですし、国民を統制するために自衛隊が出動するとなれば、自衛隊のイメージダウンは免れず、「国民に寄り添い、ともに汗をかく」ことを積み上げてきた実績が一気にリセットされてしまうでしょうから、実際に起こる可能性は極めて低いシナリオです。
それよりもハードルが低いのが2つ目のシナリオです。警察法という、特措法とは別の法律にもとづく「緊急事態」が宣言されるケースです。諸外国における非常事態宣言やロックダウンと似た封鎖を実現しようとする場合、感染症対策をベースにした特措法に立脚するより、もともと治安維持を担っている警察組織を使って実行する方が自然かもしれません。
警察法にもとづいて緊急事態が宣言されると、総理大臣が警察を直接指揮出来るようになります。つまり、安倍首相が全国の警察を直接、指揮できるようになるのです。すると、理屈上は街を出歩く市民を見つける度に警察が取り締まるようなことも起こりえます。「国家公安委員会の勧告と常時の助言」が必要とされますが、国会には事後の報告でもいいとされています。現在の警察法のもとでは前例がありませんが、そんな案が持ち出される可能性もゼロではありません。