「絶対にマンションに入らせるな」住人の看護師さんの感染を疑ってバリケードが設置される

お前らの知能が緊急事態な反ワクチン派も無事改宗の巻

山本 一郎 山本 一郎
1ページ目から読む
4/4ページ目

明らかに具合の悪そうな人たちが……

 親族の持病で救急に行ってきましたが、大変な状態でした……。病院はてんてこ舞いです。

 救急の待合室で親族の診察結果が報告されるのを待っていると、一人、また一人と、明らかに具合の悪そうな人たちが家族に付き添われて救急の窓口にやってきます。いつしか待合に並ぶ長椅子も具合の悪そうな人たちでそこそこ埋まり、中には顔を真っ赤にして咳をしている人が座ってもいられなくなって長椅子で横になっています。

 さらに、小学校低学年ぐらいの男の子が祖父と思われる爺さんに付き添われマスクごしにこんこん咳をしながらやってきます。何人か並んでいる救急の窓口の列に割り込む形で「この小さい子が苦しんでるんだ、先に診てやってくれ」と爺さんが懇願しています。

ADVERTISEMENT

 普段なら、おいジジイ横入りするな貴様を先に冥府へ送迎してやろうかと申し上げるべきところ、なにぶんコロナウイルスのことですので、コロナだったら辛いだろうな、お互い様だよなという同情する気持ち半分、もう半分はこんなところで蛮勇を示して爺さんを怒鳴り上げたところでこっちがコロナに伝染ってしまってはたまらないという保身をもって、静かに事の成り行きを見守るのであります。人間の弱さ、愚かさを体現した気分です。

人生の重みとは何か、やはり考えてしまいます

 これ、先に私の親族(70代)が入ったICUのお陰で、まだ10歳ぐらいの男の子が医療を受けられず放置されることになったのだとしたら、むしろ私の親族が意識回復した後で「私なんかより、なんで男の子を助けてあげなかったんだ」と私が責められたりするのかなとぼんやり思っておりました。

 もしも私も身一つの爺さんで先に限られたICUで医療を受けていることを知ったなら、私についてる人工呼吸器なんて外していいから、苦しんでる子どもに与えてあげて欲しいと言うでしょう。私も死にたくないけど、冷静に考えて人生の重みとは何か、やはり考えてしまいます。

ADVERTISEMENT

©iStock.com

 しかし、いまの医療の現場では、目の前にある満床のICUをどう使うかで判断を迫られ、平時では求められることのない「どちらの命を優先して助けるべきか」を問われ続けることになるのですよね。

 結果として、私の親族は相応の応急処置が終わってまもなく退院しますが、これから本当に感染爆発が起き、東京でアウトブレイクが発生してしまった暁には、東京都が用意した簡易病棟や、東急インやアパホテルや日本財団や楽天・三木谷さんが提供する宿泊施設に軽症者たちを宿泊させてくれたとしても、一番恐ろしいのは医療機器だけでなく診てくれる医師さんやお世話をしてくださる看護師さんたち医療関係者のマンパワーの問題です。緊急事態になって初めてわかる、命の尊さとそれを守る仕事の高潔さを垣間見るたび、適切に自粛し、感染を広げないように家にいることで彼らの足を引っ張らないことの大切さを思い知るのです。

 医療崩壊の現場とは、すなわちコロナウイルス禍がもたらす非日常そのものであり、のほほんとしていた日本人もさすがに危機感を持たざるを得ないところまで追い込まれていくのではないでしょうか。いつか、「コロナと言えば、湯沸かし器かトヨタ車だよね」と笑いあえる、その日まで。

INFORMATION

 ついにこの日が来てしまった……。文春オンラインの謎連載、特にタイトルがあるわけでもない山本一郎の痛快ビジネス記事が待望の単行本化! 現在、Kindle Unlimitedでも読めます。

2019年5月15日発売!!

 その名も『ズレずに生き抜く 仕事も結婚も人生も、パフォーマンスを上げる自己改革』。結婚し、出産に感動するのもつかの間、エクストリーム育児と父父母母介護の修羅を生き抜く著者が贈る、珠玉の特選記事集。どうかご期待ください。