心理が垣間見えるボディランゲージ
「世界的にも最大級の経済対策を実施することといたしました」
25分の冒頭会見では全体的に淡々とした調子で、声のトーンもテンポも単調だったが、安倍首相の声がもっとも高く語気が強くなったのが“最大級の経済対策”と述べた時だ。GDP(国内総生産)の2割に当たる事業規模108兆円の経済対策、おそらくここが一番、首相がアピールしたかったポイントなのだろう。
とはいえ「考えうる政策手段を総動員して、国民の皆様と共に、この戦後最大の危機を乗り越えていく決意であります」と決意を表明した時は、カメラ目線でありながら顎をわずかに引いていた。顎が下がるというこの仕草から、見ている側は首相の不安を無意識のうちに感じ取るのではないだろうか。
「友達との飲み会が取りやめになった」
「この2カ月で私たちの暮らしは一変しました」と述べている首相を画面で見ながら、思い出したのは昭恵夫人が芸能人が一緒に写ったレストランでの花見の写真。撮られたのは3月23日。ファーストレディの会合は中止されなかったのだ。
野党の追及に「都が自粛を求めている公園の花見ではない」と釈明した首相に批判が集中したばかり。もしこの件を例に“あのような行動を取らないように”と逆に開き直って訴えていたら、リーダーとしてのしたたかさや図太さが感じられ、国民の心をもっと掴めたと思う。
この微妙な微笑みが何を意味しているのか
「改めてご協力をお願いします」
すべては皆さんの行動にかかっている、協力をお願いすると前を向いて述べた首相だが、言った途端すぐに身体をプロンプターの方向、左に向けた。会見中何度もあるのだが、国民に要請しているはずなのに、言い終わるなり視線を移動させたり、身体の向きを変えてしまったのだ。ほんの一瞬、そのまま視線をそこに止めているだけで、見ている側が受ける印象は段違いに変わる。印象操作だ。
首相の本気度や緊迫感をアップさせられたのに、すぐに視線を逸らしてしまったため、そこにあるはずの張り詰めた感覚や凄みのような感情が消えていってしまった。それにしても“お願いします”が多かった。冒頭だけでも12回。改めて日本は国民の自主性に頼っている国だとわかる。
「そう確信しています」
冒頭会見の最後、安倍首相は「この緊急事態という試練も必ずや乗り越えることができる。そう確信しています」と締めくくった。ほんのわずかだけ頬を緩めて。もしかして国民を安心させようとしたのだろうか。それとも……。この微妙な微笑みが何を意味しているのか、本当にわかるのは1ヵ月後になるだろう。