自身で言葉を発さず、選ぶ表現があいまい
「臨時の医療施設として活用することも可能であると考えています」
安倍首相の会見がストレートに心に訴えてこないのは、言葉の選び方にも理由がある。
“予定です”
“可能であると考えています”
“要請すべきと考えます”
“可能性も出てくると考えます”
“思います”
はっきり言い切らず、表現があいまいななため、リーダーとして示すべき覚悟や決断力への印象が薄い。左右に置かれたプロンプターを目で追いながら右、左、時々真ん中と首を振る。作成された原稿を読み上げているだけだ。首相自身の言葉ではないため、聞き手の感情に訴えてこない。だが読み上げているのは首相本人。語尾を言い換え、言い回しに変化をつけることぐらい簡単なことだ。
「考えています」という表現を使って説明する時期はとっくに過ぎているからこそ、緊急事態宣言が発令されたのではないか。これを聞いた国民が強いリーダーシップを感じないかもしれないという“可能性”は“考えなかった”のだろう。
口は半開きで、指先も手も語らず
「事態は切迫しています」
国民に行動変容の大切さを語り、みだりに外出しないよう「事態は切迫しています」と訴えた安倍首相だが、口が半開きになり、わずかに前歯が見えていた。言葉は強いのに、この表情によって切迫感が薄らいでいく。こここそ奥歯をぐっと噛みしめるぐらい強く口を結ぶべきタイミングだったのに、言葉と表情がマッチしていなかった。思いや感情、状況等の強弱を伝えるのは言葉だけでない。言葉と同時に表れる仕草や表情がわずかに違うだけで、言葉の持つインパクトはかなり変わってくる。
「ゴールデンウィークが終わる5月6日までの1ヵ月に限定して」
本当に1ヵ月で済むのだろうか? 安倍首相が前に差し出した左手の人差指はまっすぐに立てられておらず、鍵形にやや曲げられたまま、すぐに引っ込んでしまった。「1ヵ月で済む、済ませる!」という決意があれば、人差指はまっすぐしっかり立てられていたのではないだろうか。1ヵ月で済むかどうかわからない、曲げられた人差指からそんな不安が感じ取れてしまう。そして首相は「外出自粛をお願い致します」と続けた。“外出自粛”で両手を組んだものの、“お願いします”と述べた時、その手は下げられ演台に隠れてしまった。組んだ手は演台の上か胸の位置にこそあってよかったのだ。