大林宣彦監督が肺がんのため、4月10日、東京・世田谷区の自宅で亡くなった。82歳だった。2016年8月に肺がんと診断され、余命宣告を受けていた大林監督は、昨年、月刊「文藝春秋」の取材に応じていた。3年以上に及ぶ闘病生活と、映画への思いを明かしたインタビューを公開する(記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のもの)。
◆◆◆
「ステージ4の肺がんで余命3カ月」
そう宣告されてもう3年が経ちました。僕が楽天家だからか、がん患者という肉体的な自覚症状はいまだにありません。足腰が弱って移動は車いすになりましたが、それは歳のせい。身長も174センチあったのが、この3年で10センチあまり低くなった。面白いですね。昔なじみの俳優さんに会うと、皆10センチから20センチは縮んでいる。その中では僕なんかまだ“新人”です。
7月には広島原爆の日を前に、広島へ講演に行きました。戦争のことを伝えるために生かされていると思っているから、それをやめたら死ぬしかない。
ただその頃、食が細っていたんです。主治医の先生からは「栄養を摂って下さい」と注意されていたのだけど、おちょぼ口で食べるのが習慣になっていました。それが広島に行ったら、やたらとご飯が進んだ。原爆に関する講演というある種の緊張感が良いように作用して、食欲を刺激してくれたんでしょうかね。僕は何でも良いように捉えるんです。
その機会にこう決めました。
「よし、明日起きたらいきなり大さじ2杯分のご飯を口に含んでみよう。大食いをしてみよう」
そしたら、体が大食いに応えてくれて。東京に戻ってからも食事の量が倍どころか、ご飯茶碗1杯だったのが3杯になったりしてね。60年以上連れ添ってきた(妻でプロデューサーの)恭子さんが協力してくれて、今では朝からスパゲッティやカレーライスといったこってりしたものを食べる日もあります。おかげで夏バテは全然ありませんでした。
人間というのは習慣の生き物ですから、おちょぼ口をやめて大食い療法、というのはがん患者さんには大事なアドバイスだと思っています。
楽天的な患者には薬が効く
実は、闘病の話をするのはやめようと以前は思っていました。僕はツイてるから余命宣告を超えて生きているだけだと。ところが主治医からこんな話をされたんです。アメリカで、何があっても楽天的な患者と不幸だと考える患者を集めて、どちらに薬が効くかを研究したら、楽天的な患者の方が効いたというんですね。で、先生がこう言いました。