俳優の砂川啓介さんが7月11日、尿管がんのために亡くなった。80歳だった。
砂川さんがラジオ番組で、妻で女優の大山のぶ代さん(83)が認知症であることを公表したのは2015年5月のこと。それからたった2年2カ月、愛する妻を残しての「無念の死」だった。
2人の最後の対面は葬儀前に、砂川さんの亡くなった病院でひっそりと行われた。
「お線香をあげてから棺の前へ連れて行き、砂川さんのお顔を見てもらったら、大山は、
『お父さん』
と、涙ぐみながら言いました。でも次の瞬間には、出口へスタスタ歩き始めていました。
『えっ? ちょっと待って。もう帰るの?』
『帰る』
ふわっと砂川さんのお顔を見て、すうっと出て行ってしまったんです。(略)数分前の出来事は忘れてしまいますから、そのときにはもう忘れていたと思います」
そう回想するのは、砂川さんとともに大山さんの介護をしてきた夫婦の担当マネジャー、小林明子さん。2人との付き合いは30年に及ぶ。
自宅介護では大山さんの入浴を担当し、いまも老人ホームに入居した大山さんを連日見舞う小林さん。砂川さんが亡くなったことをどう大山さんに伝えるかで悩んだという。
「『亡くなった』という言葉は使いたくなかったし、どうしたら理解してもらえるか。小さな子どもに話すようにしなければ、いまの大山には伝わらないのです」
考えた挙げ句、次のように伝えた。
「砂川さんが病気で、何度も病院へ会いに行ったよね? いま眠っているんだけど、これからも眠り続けてもう起きないのね。だから会いに行こうね」
すると、大山さんは「うん」と答えたという。
今後の大山さんについては、小林さんが手助けしていくという。
「大山の今後は、私がサポートしていくつもりです。それは砂川さんの遺志でもあると思うので。以前から『事務所マネジャーじゃなくて、ケアマネだ』と言っていたんですが(笑)」
小林さんは、夫婦の長年にわたる闘病や介護を振り返った手記を、「文藝春秋」9月号(8月10日発売)に寄稿している。