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 埋め難い孤独をソッと慰めてくれる けらえいこ『あたしンち』

 読売新聞の日曜版で約20年にわたって連載された1話完結のエッセイ風ファミリー漫画。こちらもアニメ化、映画化まで果たした人気作品だ。

 しかし、『あたしンち』ひいては“けらえいこ”という作家はあまりに過小評価されていやしないだろうか。この国の三大家族漫画は『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』、そしてこの『あたしンち』で決まりなのであって、つまりその地位は長谷川町子やさくらももこと同等であってもおかしくない。それほどに、この『あたしンち』で披露される、けらえいこの何気ない日常のスケッチ力はあまりに優秀なのだ。

 この作品がなければ、見過ごされてしまったであろう、生活の“シーン”というのが無数に存在する。父、母、あたし、弟で構成された平凡な4人家族の紡ぐ日々の暮らしは“あるある”の坩堝。とりわけ、弟・ユズヒコの“中学生男子”という時間を切り取ったエピソードの素晴らしさときたら。床屋で前髪を短くされたくないという抵抗、鼻をかんだチリ紙を一発でゴミ箱に投げ入れることができれば「明日のテストが上手くいく」という謎の願掛け、ブリーフからトランクスへの移行タイミングの難しさ、真夜中の空腹を癒す「食パン・ハム・マヨネーズ」、好きなアイドルを周りに公表できないもどかしさ……ユズヒコ、お前は俺なのか。

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読後感はもう“あるある”というレベルを超えている

 1番ハッとさせられたのは6巻に収録されているエピソード。日曜日、わけもなく1日中悶々としているユズヒコ。部屋で暴れてみたり、本屋で立ち読みしてみたりするものの、もやもやは解消するどころか悪化していく。しかし、道端で偶然にクラスメイトと遭遇し、他愛もない会話を交わすと、心が何故だかスッキリしていた。「日曜日のもやもやは寂しさが原因かも」と締めくくられるのだけども、この読後感はもう“あるある”というレベルを超えている。

 今作を読むことで抱く、「同じ想いや感情を抱えた人々が実は無数に存在するのかもしれない」という実感、これは緩やかな連帯のようなものであって、人が生きる上での埋め難い孤独をソッと慰めてくれるのである。けらえいこは『セキララ結婚生活』『いっしょにスーパー』などの結婚生活にまつわるエッセイ漫画「セキララシリーズ」もオススメ。

あたしンち コミック 全21巻完結セット

けらえいこ(著)

KADOKAWA
2015年11月20日 発売

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