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泣ける。 藤子・F・不二雄、藤子不二雄A 『オバケのQ太郎』

 最後に紹介するのは藤子不二雄の『オバケのQ太郎』である。こちらもかつて爆発的人気を誇った作品だが、長らく絶版であったという事情もあり、現在では『ドラえもん』という世界レベルの作品の陰に身を潜めているきらいがある。

 

 確かに間口の広い『ドラえもん』と比べてしまうと分が悪いのだが、夏休みに手に取りたいのは、子ども時代の万能感のようなものが色濃く発揮されている『オバケのQ太郎』ではないだろうか。子ども達だけで専用電話を作ったり、身の上相談所を運営したり、専用の貨幣制度を採用したり、放送局を始めたり、内閣を作ったり……大人の真似事でアナーキーに戯れる姿が愛おしい。スラプスティックなギャグが全編に渡って繰り広げられるおかしみは今なお強烈。それでいて、落語を彷彿とさせる気の効いたオチが用意された1話の構成も秀逸だ。

『オバケのQ太郎』の連載終了から4年後にスタートした『新オバケのQ太郎』はコマ割りもかなりモダナイズされ、より普遍的な魅力を発している。同時に、ドタバタギャグに加えて、Q太郎とU子さん、伸ちゃんと伊奈子さんといったカップリングの恋物語が幅を利かせ始める。このモテない男たちの悪戦苦闘がまた、みっともなくてブルージーで泣けるのだ。今、読み返すのであれば『新オバケのQ太郎』がオススメか。

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オバケのQ太郎 1 (てんとう虫コミックス)

藤子・F・ 不二雄(著)

小学館
2015年7月24日 発売

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ずうっと今夜だといいね。

 さて、ここまでの3作品に共通する裏テーマは「繰り返される夏休み」である。何年の連載期間を経ようとも、決して歳をとらない、成長しない主人公たち。季節を重ねるごとに、何度も描かれる夏休み、クリスマス、お正月……『ちびまる子ちゃん』の中でも、

《なんと第27話目にして(2年前の)第3話のつづきが登場!! 永遠の小学3年生まる子だけが可能な堂々たる、この展開!!》

 と、その手法を自嘲していたりする。しかし、この『オバケのQ太郎』という作品は、実は最終話において日常のループを抜け出し、モラトリアムに落とし前をつけるのである。『新オバケのQ太郎』最終話「9時カエル」である。藤子ファンの間でも傑作と名高いエピソードだ。Q太郎は自らを高めるべくオバケ学校への入学を決意し、オバケの国に帰ってしまう。最後の夜、Qちゃんと正ちゃんはめいっぱいその別れを惜しむ。

《今夜はねないでしゃべりあかそう。
ずうっと今夜だといいね。
いつまでも いつまでも。》

 成長しないって約束じゃん! と思いつつも、心地よい涙に包まれる。毎日が夏休みだったらいいのにな、と冗談めいて願いつつも、夏休みは当然のようにあっという間に終わってしまう。しかし、叶わないことへの祈りこそが、日常を輝かせる。そんなことをゴロ寝して読む漫画に教えられたりもするのです。