先週から「金正恩朝鮮労働党委員長の健康に問題が生じたのではないか」という臆測があちらこちらで生まれている。4月15日の金日成主席生誕記念日に行われた、金日成主席と金正日総書記の遺体が安置された錦繡山太陽宮殿への参拝に、金正恩氏が参加しなかったからだ。

確認された動静は11日の平壌・党政治局会議が最後

 世襲しか権力を正当化する手段を持たない金正恩氏は過去、金日成主席の生誕記念日のほか、2月16日の金正日総書記の生誕記念日、10月10日の党創建記念日など、重要な節目ごとに錦繡山太陽宮殿を参拝してきた。それだけに、米国や韓国メディアは「金正恩氏が健康を害したのではないか」と報じ、後継者として実妹の金与正氏の名前を挙げる気の早い専門家まで現れた。

 金正恩氏の動静が最後に公式に確認されたのは、4月11日に平壌で開かれた党政治局会議での姿だった。朝鮮中央通信が翌12日に公開した会議での金正恩氏は血色も良く、健康にそれほど問題がないように見られた。北朝鮮メディアはその後、金正恩氏の動静について伝えていない。

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最後に動静が伝えられた、平壌で開かれた党政治局会議(4月11日)での金正恩氏(朝鮮中央通信より)

 ただ、米韓関係筋によれば、金正恩氏は14日早朝から、日本海側の江原道で行われた軍事演習を視察していた。平壌と連絡を取り合う脱北者の1人も「正恩氏がこの頃、江原道付近にいたのは間違いない」と証言する。韓国軍合同参謀本部も、北朝鮮が14日朝、江原道文川付近から数発の短距離巡航ミサイルを発射したと発表した。だが、北朝鮮メディアはこの演習について一切報道していない。

14日にミサイルを発射した訓練が行われたというが……

 別の米韓関係筋によれば、14日午前7時ごろから数十分の間、北朝鮮が「金星3」と呼ぶ射程150kmほどの地対艦巡航ミサイルを数発、日本海に浮かべた標的艦に向けて発射した。戦闘機も出撃し、空対地ミサイルを数発発射したという。

 この演習で使われたミサイルは新兵器ではなく、3年前にも発射されたことがある。ただ、今回は虎の子の戦闘機も参加した訓練だった。自衛隊関係者によれば、北朝鮮軍は国際社会の制裁などで航空燃料の節約を迫られており、パイロットの年間飛行時間は十数時間程度しかない。自衛隊の10分の1程度という有り様だけに、最高指導者の視察に合わせて「奮発」したとみられる。

西部地区戦闘機訓練を視察する金正恩氏(朝鮮中央通信より)

 また、朝鮮中央通信は12日、正恩氏が西部地区の北朝鮮軍が行った戦闘機訓練を視察したと報じた。10日には、正恩氏が迫撃砲訓練を視察したとも報じた。西部地区の戦闘機訓練は報じても、東部地区での戦闘機を使った訓練は報じないというのであれば、軍内部で不公平感が出るだろう。また、北朝鮮の市民や軍を鼓舞するためには、迫撃砲よりも巡航ミサイルの方が視覚的にも効果が大きいはずだ。