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「海外遠征で朝食が準備されていない……」

 このエントリー漏れが発覚した数週間後に岐阜羽島での定例代表合宿が行われた。選手の動揺を心配した高橋と岡本は岐阜に向かった。そこで2人は更なる不信を覚えることになった。強化に携わるコーチたちは被害にあった選手たちに何の連絡もしておらず、この合宿で顔を合わせたときにようやく謝罪したのだという。

「選手たちが完全にコーチに対して信頼をなくしているんです。そこでコーチたちに全員抜けてもらって私と岡本さんと選手たちとの間で話し合いをして、そのときに、選手たちの本音が初めて聞けたんです。4月からこの夏ぐらいの間までにどんなにたくさんの不備があったのか。

 海外遠征に行っても朝食が準備されてなくて持参したお菓子で凌いだり。小池体制のほころびというものが、そこで初めてわかったんです」

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「自己負担3~4万円」 選手たちが代表合宿を拒否するまで

 エントリー漏れ後も強化委の迷走は続く。9月には協会によって東京五輪代表選考の説明会が行われたが、各階級3人の五輪強化指定選手を本番より1年半も前の2019年2月の全日本選手権で決定するという発表に猛反発が起きた。あまりに早い段階での絞り込みは選手の伸びしろやコンディション調整、モチベーションから見ても拙速だ。さらにはその強化指定選手からの代表決定も選考基準が具体的に示されず、不透明で公平性に欠けるとして抗議が殺到したために、結局協会側は再検討を余儀なくされた。不信感は高まり、続いて11月に行われた強化合宿においては選手16人を招集した中で、なんと2人しか来ないという異常な事態になった。

 

「選手は、合宿については日程連絡が来るけどそこには強化のテーマが何も書いてないと言うんです。合宿も一部自己負担で1人3~4万円払わないといけないんですけど、トップの選手たちを集めてやるんだったら、実践練習をすべきなのに基礎体力メニューばかりで何もやらない。きちんと教えてくれるコーチのことは尊敬しているし、アスリートの本能として自分が強くなれると実感できればどんなきついメニューでも頑張るんですが、代表の指導の中身が無いので、むしろ自分の道場で組手をやりたいと書いてくるんです。1カ月に1回、わざわざ岐阜に集まって体力運動やるの? そんな練習メニューなんですよ。選手から挙がってくる声は、わがままではなく当然のことだったんです」

 強化施策は、長中期を見据えたグランドデザインが不可欠である。本来、名誉に感じるはずの強化合宿にほとんどの選手が来ない。すでにこの段階で異常な状態であった。しかし、翌2019年2月の理事会では、これを問題視することなく、代表強化については現体制と同じ人事で行くということが承認された。13人の理事の内、「エントリー漏れをした人たちの課題も解決できておらず、合宿に人が集まってないのに、なぜ同じメンバーでやるのか。それは絶対に飲めない」と反対したのは高橋1人であった。そして金原体制と選手たちを分かつ決定的な事件が起きる……。

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写真=山元茂樹/文藝春秋