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テコンドー協会の理事は「年間約50万円の持ち出し」

 そこからほぼ20年、テコンドー協会に一切タッチせずに高橋は教育産業の会社員として執行役員にまで上り詰めた。ところが、2015年に協会にいたその岡本から、突然協会に来て欲しいとのオファーを受けた。当時のテコンドー協会は内閣府が問題視した金原会長のコーチ謝金不正使用問題があった後で、2014年7月には公益社団法人の認定を取り消されていた。まずは健全化を、ということで外部からスポーツ法学会の2人の弁護士が専務理事、常務理事として送り込まれ、ガバナンス強化を図っていた時期であった。

「スポーツ界全体としても公正に女性の役員を増やさなければならないという機運が高まっていた中だったのですが、16人いるテコンドー協会の理事の中で女性は岡本さんただ一人でした」。競技経験者も半数以下。そのため岡本が「オリンピアンで、ガバナンスに厳しい企業にいて、しかも教育についても詳しい人材」として、高橋に声をかけたのである。理事になるならば、会社の役員は辞めねばならず、財源に乏しい協会故に活動経費も自前。年間約50万円は持ち出しになる。それでも高橋は夫や子どもにも内緒でこの道を選んだ。

「金原さんが再び会長に再任されたのです」

 20年ぶりに戻ったテコンドー協会は想像以上に混迷を極めていた。結局2016年にそれまでの責任をとる形で金原会長が辞任をする。しかし、これで問題解決とはならなかった。そこからの動きがますますの迷走を招いた。高橋が改めて発端を振り返る。

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金原昇元会長、じつは2016年にも一度辞任していたのだが…… ©AFLO

「一連の問題は、そもそもが強化の体制の問題なんです。テコンドーはオリンピックで3大会連続してメダルを逃していました。それで金原会長の辞任後、“会長代行”は当時の常務理事で弁護士の安藤尚徳先生がなって下さっていました。安藤先生は現場の声をよく聴いてくれて、今振り返るとこの時代が選手にとって最も良かったと思うんです。ところが、同じ2017年に会長選挙が行われると辞めていた金原さんが再び会長に再任されたのです」

 疑惑で辞任に追われた人物がたった1年で復帰した。さらにそこに至るプロセスも不可解であった。安藤は会長選には出ないと固辞したために、会長選挙は日本テコンドーのアイコンとも言える岡本依子と金原前会長との一騎打ちとなった。当初は選手出身でメダリスト、何よりテコンドーへの愛情が深くビジョンもある岡本が当選するという見方が勝っていた。ところが、2人の理事が「金原が会長にならなかったら自分たちはその職を辞める」と言い出した。