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「遅いインターネット」とは?

宇野常寛さんの著書『遅いインターネット』(幻冬舎)

宇野 念のため言っておくと、僕はインターネットそのものを否定するつもりはありません。むしろ、どうすればこの武器を有効に使えるのかをずっと考えてきたわけです。いまインターネットが人間を「考えさせない」道具になっている。人間は安心するためにデマやフェイクニュースを拡散するし、自分は「まとも」な側だからと安心するために週刊誌やワイドショーが指定した目立ちすぎた人や、失敗した人に石を投げてスッキリする。しかしインターネットは本来もっと人間の思考を自由にするためのもので、その豊かな可能性をどう取り戻すのかを考えたくて今度書いたのが、『遅いインターネット』という本です。

茂木 面白く読みました。あの本の中で、オリンピックについても書いていましたね。東京五輪は来年に延期になりましたが、今回のパンデミックは、世界中から自由にアスリートが集まり、同じフィールドで競い合うというオリンピックの理念そのものを危うくする可能性があります。

五輪は分散開催でよい

 

宇野 僕は東京オリンピックについてもともと批判的で、自分のやっている雑誌「PLANETS」でも、自分たちの考える別の形でのオリンピック企画案を示したりもしました。でも、今の事態を受けてからだと、全く別のプランを提案しますね。世界200カ国の選手たちが1カ所に同時に集まるのではなく、分散開催でいいと思うんです。たとえばマラソンは、毎年発祥の地のギリシャでやればいい。柔道は東京の武道館がいいかもしれない。それらをインターネットでつないでダイナミズムをもたらす、ということは今の技術なら可能だと思うんです。世界各国の人が一つの都市にまとまるのではなく、ばらばらのままゆるやかにつながることで、これからの社会のビジョンを示すようなものが良いと思いますね。

茂木 オリンピックというのはグローバリゼーションの象徴でもあった。今回のパンデミックは、近年の世界の発展原理そのものを撃ったような気がします。

 フランシス・フクヤマが、1989年に『歴史の終わり』という論文を書いて、東西冷戦が終わり、議会制民主主義と資本主義の組み合わせが、社会主義に最終的に勝利した、と宣言しました。世界は経済的にも文化的にも統合されていくのかと思いきや、ここ数年、中国がアメリカとは別の存在感を示すようになった。

 しかも個人情報が全部政府によって管理されていて、その評価が、銀行の融資や、進学、就職といったことまで左右するようになっている。今回の武漢を震源とする新型コロナウイルスでは、中国はその監視社会的なやり方で、強権的に封じ込めに成功したようにも見えます。むしろ欧米諸国が、スマートフォンの位置情報から人々の行動を把握して、感染者と濃厚に接触した人を突き止めるといったような形で、中国に追随しようとしている。