劉暁波が残した“当局の情報隠蔽”のポイント
劉暁波は、SARSが流行した当時、蒋医師に呼応して中国当局の情報統制を鋭く分析し、批判した。それは今回の新型コロナウイルス惨禍を考える上でも大いに参考になる。
劉暁波は「SARS―天災が人災に変わる―」において「一党独裁は平然と自国の民の命を粗末にすると同時に他国の民の命をも粗末にする」と指摘した。さらに彼は、中国当局によるこのような情報の隠蔽はシステム化されていると論じ、以下の8項をあげた。
(1)災禍が発生したとき、その報道は、メディアのトップではなく、国内ニュースの片隅で行われる。
(2)最高指導者が重視され、党と政府の配慮、救援、対処を最優先に報道する。
(3)全てのメディアは口裏を合わせ、最高レベルの審査を経た情報しか公表しない。
(4)あの手この手で真相を隠蔽する。どうしてもできなくなると、肝心なことは避けて、二次的なことを取りあげる。
(5)災禍の悲惨で深刻な現場について、撮影や追跡調査は禁止される。
(6)望ましいこと、めでたい成果を大々的に報道する。社会の不安やパニックを弱めるためとされる。
(7)事実の調査や論証は密室で検討され、調査結果は選択され、さらには不正な操作で歪曲される。
(8)関係者への処罰、その程度は、上層部との関係の親疎による。
そして、劉暁波は「真実の歴史、その記憶がなければ、明るい未来はない」と結ぶ。
このような前例と政治的背景があるからこそ、現在、アイ医師の安否を気づかう人が多いのである。この問題は根深い。中国数千年の歴史において連綿と繰り返された「文字獄」が今もなお進行中であり、「民」によるアイ医師への気づかいは、決して考えすぎではないのだ。
◆
「武漢・中国人女性医師の手記」の全文は「文藝春秋」5月号および「文藝春秋 電子版」に掲載されている。
※「文藝春秋」編集部は、ツイッターで記事の配信・情報発信を行っています。@gekkan_bunshun のフォローをお願いします。
全文掲載 中国政府に口封じされた武漢・中国人女性医師の手記
【文藝春秋 目次】<総力特集>コロナ戦争 日本の英知で「疫病」に打ち克つ/<追悼>志村けん「最後のコメディアン」/五輪延期費用IOCも負担せよ
2020年5月号
2020年4月10日 発売
定価960円(税込)