朝ドラ「エール」に、志村けんが小山田耕三役でついに初登場する。「からたちの花」「赤とんぼ」などの名曲で知られる、作曲家の山田耕筰(1886~1965年)をモデルにした人物だ。

志村けんさん

 これには、絶妙な配役と唸らされた。音楽つながりだけではない。山田耕筰もまた、志村けんに負けぬぐらい、周りを笑わせる艶福家だったからである。その人柄を知れば、朝ドラもより深く観られるだろう。

「山田先生は、女性関係にルーズだった」

 あらためていうまでもなく山田耕筰は、日本の音楽史に燦然と輝く大作曲家である。

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 第一次世界大戦前のドイツに留学し、日本人初の交響曲「かちどきと平和」を作曲、帰国後は日本最初の交響楽団・東京フィルハーモニーを組織した。その後、米国カーネギーホールで自作自演の演奏会を実現し、オペラや童謡でも数々の作品を残した。

山田耕筰 ©共同通信社

「エール」主人公のモデル・古関裕而のみならず、戦前、西洋音楽を志すものにとって、山田はまさに憧れの対象だった。

 その一方で、山田は艶聞にも事欠かなかった。関係があったとされる女性は数知れず。宴席での猥談・猥歌も有名だった。弟子のひとり、團伊玖磨は呆れ気味にこう証言する。

「山田先生は、女性関係にルーズだった。あれほど野放図じゃあね。現代なら、セクハラで社会から葬られてる(笑)」(「山田耕筰 現在ならセクハラで社会から葬られています」「文藝春秋」2000年1月号)。

 同じく弟子の高木東六も、こういって憚らない。「ぼくが学生のころに宴席で聞いた先生の話というのは、三分の二以上が猥談」であり、その替え歌は「あまりに猥褻過ぎてちょっと文字には表しにくい」と(『愛の夜想曲』)。