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そう言われると内容を知りたくなるが……

 そう言われると内容を知りたくなるが、幸いにも、声楽家で音楽評論家の畑中良輔がその「エッチ噺(ばなし)」を詳述している。やや長いが、貴重なので引用しよう。

 山田が来客とともに独自考案の「長崎式スキヤキ」(ビールが入っていた)を囲んでいたときのこと――。

「いや、なあに、ネ。深川のほうのしゃれた一家屋に、どうやら見たところ二号(引用者註。愛人のこと)さんらしい女性とばあやが二人住んでいてね。旦那さんが来る時にはごちそうを作らねばならず、今日は蒸し暑いから冷や奴にしようと、その二号さんは着物の前をまくって、飼っているポチにそれを見せ、内股の白いところをポンポンと叩くと、ポチはキャンキャンと吠えて、籠をくわえて豆腐屋へ行き、トーフ一丁を買ってきたという。賢い犬もこの家の大切な家族だったわけね」

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 山田はここで、ビールをぐいと流し込み、話を続けた。

「ある時は、秋の味覚をというので、旦那の帰って来たところで、着替えた旦那のキモノの前をまくって、チンチンを弾いてみせると、ポチはキャンキャンと籠をくわえ、やがて大きな松茸を一本くわえて台所に来るというほほえましい夕食の支度もあった」

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 山田の話はまだまだ止まらない。

「さて、今日は、赤貝とチシャのスミソ和えにしようと、二号さんは例によって裾を上げ、パタンパタンと股を閉めたり開いたりすると、キャンキャンとポチはまた吠えて一目散に籠をくわえて出て行った。しばらくして帰って来たポチの籠には、真っ黒なヒジキが山のように盛り上げられていましたトサ」

 同席していた女性はこれを聞いて、「キャーッ、きゃあ! いやーァ!」と畳の上に身をよじって転がったという(『日本歌曲をめぐる人々』)。