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「どんなに酔って家に帰っても、俺は映画を観る」

 志村の愛弟子であった乾き亭げそ太郎氏がその日々を振り返った文春オンラインの記事「『お前、なんだその髪は!』志村けんの逆鱗に触れた“頭髪激怒”事件 愛弟子が涙で振り返った」では、〈毎日帰宅が深夜だったのですが、志村さんは『どんなに酔って家に帰っても、俺は映画を観るようにしている。コントに大切なヒントやカメラのアングルも参考になる』と話していて、いつ寝ているんだろうと思いました。いつも仕事の移動中にCDショップに立ち寄り、月3、4回ほど新しい映画のDVDを10本くらい買われるんです。〉と師匠が映画を観まくっていたことが証言されている。

 かねてから志村がチャップリンやマルクス兄弟などのサイレント・コメディを愛し、そこから着想を得たコントを『8時だョ!全員集合』『ドリフ大爆笑』で繰り出すなど、相当なシネフィルだったことは知られているが、今回の総集編にも映画が元ネタのコントがピックアップされている。

©︎文藝春秋

 教師に扮した志村が鉄の爪でガラスをキーキーと引っ掻いて不良生徒たちを懲らしめるのだが(#2、4月21日配信)、その爪はホラー映画『エルム街の悪夢』シリーズ(1984~1994年)に登場する殺人鬼フレディ・クルーガーが装着しているものと同じ。『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』ではロバート・イングランド演じる正真正銘のフレディとの共演を果たしており、志村の“フレディ推し”が窺える。

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 さらに映画ネタでいえば、コメディ映画『裸の銃を持つ男』シリーズ(1988~1994年)のレスリー・ニールセンと『志村けんのだいじょうぶだぁ』『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』双方で共演もしている。いっそのこと『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』もYouTubeで公式配信して、ついでにフレディ共演コント、レスリー共演コントも公開してくれないかと切に願う。

©︎文藝春秋

田代まさしとのあうんの呼吸

 しかし最大の見どころは、なんといっても志村と田代まさしが同じフレームに収まっている画が再び見られたことに尽きる。彼の秘めていたコメディアンとしての非凡な才能を志村が発見して『志村けんのだいじょうぶだぁ』へと招いただけに、その掛け合いは神がかっているレベルと言っていい。

 そんな彼らの凄さが堪能できるのは、4本すべてに収められている「ご存知!じいさんばあさん」だ。ほぼ同時に田代が「ばあさんや!」、志村が「じいさんや!」と呼び合うのを合図に、言い間違い、聞き間違いを繰り返して、まったくもって会話が噛み合わないという展開だが、それが出来たのもふたりの息がピッタリだったからこそ。合間にアドリブを挟み、本気で笑い出してしまう姿にこっちも笑ってしまうわけだが、一方でもう共演することは完全になくなってしまったんだなと思うとジワ~ッと涙が出てしまう。