「杉並には当時、50人強の自宅待機者がいました。ようやくホテルへの収容が始まったと胸を撫で下ろしていたら、区内からは1人も収容されていなかったと分かり、愕然としました」と話す。
原因は「本人同意」だった。
なぜホテル収容には「本人同意」が必要なのか?
背景にあるのは、厚生労働省が都道府県などに対して行った「事務連絡」だ。同省は3月、感染拡大で重症者らの入院に支障を来すと判断された場合、軽症者や無症状者は自宅療養を原則とするなどとした文書を流した。
都のホテル政策はその後に打ち出された。ホテルでは外出が禁止されて、3食提供されるなど隔離性が高い。医療関係者も常駐する。医療崩壊を避けるための病院の代替物として位置づけられた。
となれば、感染者は自宅よりホテルへ優先して収容されるはずだと思いがちだが、実際にはどちらかを選ぶことができ、ホテルへの収容には本人の同意が必要とされた。田中区長はこう指摘する。
「指定感染症は隔離治療が必要なので、感染症法に基づいて入院勧告がなされます。勧告に従わなければ措置入院です。にもかかわらず、政府の文書一つで自宅療養が原則とされてしまいました。ホテルは、病床がいっぱいになった代わりに入ってもらうのだから、入院と同様に扱うべきです。ところが、病床が空いていれば措置入院、代わりのホテルなら本人の希望制というのでは整合性が乏しいと思います」
自宅療養者が抱える“2つのリスク”
同区長は「可能な限りホテルに入ってもらわなければならない理由は2つある」と言う。
1点目は感染拡大抑止のためだ。「ホテル療養では外出が禁止されますが、自宅療養ではそれぞれに任されています。このため自宅療養者の中には自分で買い物をしている人がかなりいます。感染者が自由に歩き回るようでは、スーパーの『3密』対策どころではありません。外出自粛で多くの事業者が経営難に陥り、失業者が出るほどの事態になっているのに、政策として矛盾があります」
自宅療養者には職員が食品などを配達している区もあるが、配達す
に感染が知られてしまう恐れがあり、自宅療養を推奨する形にもな
2点目は患者本人の症状急変対策だ。
新型コロナウイルス感染症は軽症であっても急変するとされてきた。埼玉県では自宅療養をしていた患者が2人も亡くなっていたと判明している。その点、ホテルには医療関係者が詰めるなどしているため、急変時に対応しやすい。