厚労省の副大臣や政務官、幹部職員が4月19日に5区の区長に聞き取り調査をした時、田中区長は「ホテルを入院に準じた扱いにすべきだ。国がやらないなら区の法律解釈で入所勧告を行う。問題があるなら、この場で羽交い締めにして止めてほしい」と述べたが、「羽交い締めにはされなかった」と話す。
そこで区の保健所を通じ、自宅療養者や新規感染者にかなり強い「勧告」を行った。その結果、4月20日になってようやく区内からホテル入所者が出始めた。都が自宅からの収容を開始してから3日後だった。
陰性の子供と同居している陽性者も
加藤勝信・厚労大臣が「軽症者は原則ホテル療養」と述べて、国としての方針転換を言明したのは、さらにその後の4月23日だ。
「それでも『宿泊療養には抵抗がある』などとしてホテル入所
いのです」と田中区長は嘆く。比較的若い世代の独居者の割合が高く、そのほとんどが自分で買い物をしている。
重症化する恐れがある高齢者や妊婦、基礎疾患がある人、抗がん剤を使うなど免疫が抑制された状態の人については、厚労省が自宅療養対象外としているのだが、にもかかわらず自宅療養を望む人がいる。
陰性の子供と同居している陽性者もいる。感染者全員が入院していた頃には、患者に小さな子がいれば、経過観察も含めて病院で一時引き取るなどしてきた。しかし、自宅療養になれば、子の扱いは感染のリスクがあっても、患者本人の判断になってしまう。
「地上波しか見られない」と言って強引に帰宅
中には、一度ホテルに入った後、「部屋の窓が開けられない。浴室に小さな換気扇しかなく息が詰まる。テレビが地上波しか見られない」などと主張して強引に帰宅した人もいる。ホテルには都職員が詰めているが、「都は療養の場所を提供しているだけで、本人の説得は行わない」として、都の担当課が区の保健所に対応するよう求めたという。
保健所では「指定感染症は入院が基本。医療崩壊を防ぐために軽症者は特例的に宿泊療養をしているだけで、本人の希望で療養環境を選択できる性質の病気ではない。急変のリスクもある」と粘り強く説いたが難しかった。
杉並区では、自宅療養者へのせめてもの急変対策として、血液中にどれくらいの酸素が含まれているか計測するパルスオキシメーターを貸与するなどしており、1日2回は保健所が健康状態を確認する電話を入れている。だが、自宅療養者に手厚く対処すればするほど、保健所の業務は増えてしまう。「そうでなくても感染症対策で忙殺されているのですが」と田中区長は話す。