みなさん、柳田悠岐のことは好きですか?

 勝手な憶測だが、大多数が「もちろん」と頷いてくれるはずだ。それはおそらく贔屓球団も関係ない。

 愛称はギータ。身長188cm、体重96kgのスラッガー然とした体躯は、球場客席の最上段から眺めてもすぐに見つけることの出来る存在感を放つ。余談だけど、股下は91cm(脚長っ)、足のサイズ29.0cm、手のサイズ20.5cmというちょっとマニアックなデータも付け加えておく。

ADVERTISEMENT

 魅力はたくさんある。だけど、やっぱり彼が放つホームランが一番いい。2015年6月3日の横浜スタジアムでのスコアボード破壊弾は今なお紹介されることも多い伝説的アーチだ。ライトへ引っ張る本塁打もいいけど、レフトに流し打つ一発にはいつも驚かされる。打った瞬間に見ているこちらが「お!」と声が出るほど力強い打球。あんなホームランは柳田にしか打てない。そして、打席の中で打球を見つめ、ゆっくりと走り出す様がまたカッコいい。すぐに全力疾走しなきゃダメだろと突っ込まれてバツが悪そうに苦笑いする顔も見たことがあるが、それもまた柳田の愛嬌だ。

 先述した2015年には打率.363(首位打者!)、34本塁打、32盗塁の成績でトリプルスリーを達成した。あんなにデカくてパワフルなのに足も速い。さらに、守りでも魅せてくれる。強肩もすごいけど、球際の強さが光る。左中間深くの当たりを猛然と追いかけて、背走しながらランニングキャッチ。球場がドワーっと沸く。ホームランを打った時と変わらぬ熱量の歓声に包まれる雰囲気も好きだ。ゴールデングラブ賞は4度受賞している。

たくさんの魅力がある柳田悠岐 ©文藝春秋

 同じ時代をともに生きているおかげで、そのプレーに熱くなれる幸せ。柳田は人間ばなれしたモンスター級のプロ野球選手である。

 人間ばなれした……??

 いや、この言い回し、何かぴんと来ない。プロ野球のスター選手といえばプレーも見た目も生き方も何もかもが豪快で、ある意味浮世離れしていて、我々とは完全に別世界を生きている人を指すことが多い。球史を振り返れば大抵がそうだ。直近の偉大なスターといえばイチロー。あんなに完ぺきで、あれほどストイックで、どこか謎めいている。そこが魅力だったりもする。

 だけど、柳田は、僕らが生きている世界とかけ離れていないような気がしてならない。画面越しからでも伝わってくるはしゃぐ様子や喋り口調は、まるで近所の気のいい兄ちゃんだ。

YouTubeの撮影中に見せた自然な気配り

 今、僕らが生きている2020年。まさかプロ野球のない日常を過ごすなんて思ってもみなかった。寂しく思っているのはファンも選手も同じだ。球団は工夫を凝らしてくれて、選手と何ができるかを話し合いながらオウンドメディア(球団SNSなど)を活用して情報発信を積極的に行っており、その中の一つがオンラインでのファンミーティングだ。規模は様々だが、ファンと選手が画面を通して双方向で会話などを楽しめる。ひと昔前まではなかった画期的なファンサービスの形だ。

 4月26日の日曜日の昼下がり。自主練習を終えてから柳田も初めてそれを行った。老若男女のファン数名との楽しいやりとりが編集されたものは現在ホークスの公式YouTubeに公開されているが、当日は取材の一環としてフルサイズで見させてもらった。とにかく面白いし楽しい。気さくな人柄があらゆる場面から伝わってきた。

オンラインファンミーティング中の様子(球団提供)

 YouTubeで見ることもできる場面では大学時代にアルバイトをしていたエピソードは秀逸だった。大学の野球部とバイトを掛け持ちというのは、たとえば東京六大学や東都リーグではほとんど聞いたことがないし、地方の大学だとしてもプロ野球に進むほどのプレーヤーは基本的に野球漬けだから珍しいパターンだ。

 柳田によれば、夕方から練習が始まり夜9時頃には終わる。さっとシャワーを浴びてばたばたと急いでバイト先に向かい、夜10時から明朝まで働くのが日課だったらしい。

「カラオケ店、あとは冷蔵の仕分けをやりました。冬場の冷蔵庫はマジでヤバイ。死ぬ思うた(苦笑)。でも、カラオケ屋は面白かった。着いたらタイムカードを押して、まずは腹が減ってるんでナゲットを揚げて、メロンソーダを飲んで。それオッケーだったんです。ちゃんとバイト代から引かれてましたから」

 あの柳田がドリンクを持って部屋を訪ねてくる。「普通にやってましたよ」。ちなみに、柳田のバイト歴は高校3年生の時から。最後の夏の大会が終わった後にモスバーガーで働いていたので接客業は慣れたものだった。それは遊ぶ金欲しさではなく、ジムに通うためのお金を自分で稼ぐためだった。