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イーグルス期待の星・黒川史陽の実家のバッセンでお父さんと話したこと

文春野球コラム Cリーグ2020

 2019年大晦日の仕事が急遽なくなり、年末年始にかけて休みができた。こんな機会も滅多にないだろうという事で、結婚して初めて嫁さんの実家でお正月を過ごす事になった。

 朝から義父と箱根駅伝を見ながら酒を飲む。佐久長聖や、関大北陽に九州学院……選手の出身校を見てその学校の野球部員を思い浮かべながらまた酒を飲む。眠くなれば横になり、ひたすらダラダラと酒、箱根、昼寝、最高のお正月セットなのだ。しかし平和なひとときは束の間、

「バッティングセンターに行きたい」

 小学校1年生の息子が突然言い放つ。

 うん、今はちがうよね? なんて感覚は一切持ち合わせていない。

 そして一度口にすることでその気持ちが増幅されていくのが小学生だ。なんせバッティングセンターになんか一度も行った事がない。野球は僕とのキャッチボール程度、そもそもバッティングセンターという言葉をどこで覚えた?

 お正月に突然のバッセン宣言、しかしながら嫁さんの実家は奈良県の山あいにある住宅街、こんな所にそんな施設があるわけがない。まぁ検索して近くになければ息子も納得するだろうと調べてみた。

「王寺ドームスタジアム」

 うそやん……。

 嫁さんの実家から川を挟んだ向こうにそれはあった。逆になぜ気づかなかったと思うほどの距離。橋を渡るだけでもちろん歩いていける。正月にも関わらず営業中。断る理由が見つからない。箱根路の新たなる山の神降臨を確認する事なく、息子と出かけた。

王寺ドームスタジアム ©かみじょうたけし

奈良県の山あいにあるバッセン・王寺ドームスタジアム、それは黒川史陽の実家であった

 ほどなくして見えてきた大きな白いドーム。立派な駐車場があり、入口手前のネットではトスバッティングをしている親子やバットスイングを確認している中学生がいる。乗り気でなかった僕も自然とテンションがあがる。

 そしてドーム内に入った僕の背中に電流が走った。入り口すぐの右側に、楽天イーグルスの背番号24のユニフォームとサインが飾られてあるではないか。

 まさか!?

 そう、そこは我がイーグルスのスーパールーキー・黒川史陽選手の実家が経営するバッティングセンターだったのだ。

 よく見るとドーム内には智弁和歌山時代の黒川選手のタオルや写真、高校野球界では名の知れた球児のネーム入りタオルがずらりと飾られている。高校野球好きなら時間を忘れて楽しめる空間だ。バッティングゲージは、小学校低学年の息子も打てる球速60キロの低速級からMAX130キロまでバラエティーに溢れ、硬式球も打てるようになっていた。そんなわけで、小さな子供から大人まで、野球好きが初打ちに訪れていた。イーグルスファンにとって最高の場所で、息子にバッセン初体験を経験させることができ大満足で家路についた。

ドーム内に飾られているタオル ©かみじょうたけし

 数日後、文春野球コラムでもおなじみの市川いずみさんを介して、黒川選手のお父さん(黒川洋行さん)からお礼の連絡が届いた。野球界は狭い、何らか人の縁がつながっている。お父さんに僕がイーグルスファンである事を伝えると、「一緒に応援に行きましょう」と言ってくれた。黒川選手は、小学生の頃から1日1000球以上打っていた事、中学のころには130キロのゲージで一球打つ事に距離を詰め、最後は半分くらいの距離から打っていた話。自分と息子3人、共に甲子園に出場しているが、運動神経がいいのではなく野球だけが突出している事、(黒川選手は)水に顔もつけられないほどトンカチで水泳苦手なエピソードまでも教えてくれた。野球の話はもちろんのこと、黒川親子の強い絆を感じる話をたくさん聞くことができた。