フランスのノーベル文学賞作家、アルベール・カミュの代表作「ペスト」(新潮文庫)が再び注目を集めている。新型コロナウイルスの感染拡大とともに世界中で関心が高まり、イギリスやイタリア、フランスなどでベストセラーに。日本でも感染が国内で広まり始めた2月以降読まれ、新潮文庫版は累計発行部数100万部を突破した。2018年6月に放映されたNHKの番組「100分 de 名著」で『ペスト』を扱った回(全4回)も今年4月に一挙再放送され、好評だったという。

『ペスト』は古来より何度も世界的大流行を起こした致死率の高い感染症であるペストの猛威にさらされたフランス領アルジェリア(当時)の港町オランが舞台。感染拡大を防ぐため外界から完全に遮断された都市で、ペスト菌という見えない敵と戦う医師リウーやその友人タルーらの群像劇を通して、不条理に直面した時に示される、人間の様々な行動を描いている。

アルベール・カミュ ©AFLO

 70年以上前に書かれた小説が、いま再注目されているのはなぜか。発売中の「文藝春秋」6月号では、「100分 de 名著」で『ペスト』を解説した中条省平学習院大学文学部教授がその理由を分析している。

ADVERTISEMENT

◆◆◆

『ペスト』がいま再注目されているのは、小説で描かれた世界と現在のコロナ禍の世界に、多くの共通点を見出すことができるからでしょう。

 まず、ペストが蔓延することになる「一九四*年のオラン」では現代社会と同じように経済最優先の市民生活が営まれています。

経済最優先の街で発生した「疫病」

〈ここの市民たちは一生懸命働くが、それはつねに金を儲けるためである〉

 と物語の冒頭で記されるように、この街では新聞を開けばまず経済のことが目に入るし、お金をどう儲けるか、どう裕福になるかということばかりが問題にされています。

ペスト』(新潮文庫)

 そもそも植民地というのは、経済的利益の搾取のために、他国による支配がおこなわれている場所ですから、その意味では、経済最優先であるのは当然のことともいえます。

 そんな街で突然「天災」として疫病が発生した時に、何が起こるか。