2人は「宰相の器」か?
思えば、過去にも「知事の時代」がありました。1993年、細川連立政権が成立した時です。熊本県知事だった細川護煕氏が首相に、滋賀県知事だった武村正義氏が官房長官となって政権が運営されました。
中央政界でリーダー不在が叫ばれる今、あのとき以来の「知事の時代」が起きつつあるのかもしれません。
実際に、鈴木知事と吉村知事の活躍は中央の政局にも影響を及ぼしています。たとえば「ポスト安倍」レースです。
鈴木知事と吉村知事の背後には、「ポスト安倍」の一人、菅官房長官の存在があります。鈴木知事との関係は先述の通りですし、維新の橋下氏・松井氏は、年末に安倍首相・菅氏と毎年会食する間柄。菅氏本人も吉村知事と密に連携をとっていると語ります。一方、「ポスト安倍」の有力候補で、安倍官邸が推す岸田文雄政調会長は、鈴木、吉村両知事にやられっぱなしの安倍官邸の尻拭いをする役回りに追い込まれています。
つまり、「2人の人気知事」を影響下に置く菅氏と、「安倍官邸」に足を引っ張られる岸田氏という構図の戦いになっている。「ポスト安倍」同士が直接ではなく、間接的にコロナ問題で対立する“リモート政局”になっているのです。
では、鈴木知事と吉村知事は「ポスト安倍」になりえるかといえば、やはり知事という立場を超えると、有望な2人にも「物足りなさ」が見えてきます。細川内閣のときは、細川氏も武村氏も国会議員として国政でも経験を積んでいました。一方、今回は国政経験のある吉村知事でも衆議院議員を11カ月ほど務めただけ。いきなり「ポスト安倍」というのは飛躍があります。
ただ、長いスパンで考えれば、2人が国政に上がってくる可能性は十二分にあります。実際に鈴木知事は、地元で「2期知事をやったあとは国政に進出するだろう」とまことしやかに語られています。
宰相を目指すなら、鈴木知事は、コロナ後に疲弊する北海道経済で観光振興に加えて別の目玉を作って活性化できるのか。まずは何か一つ道知事として実績を残せるかどうかが分岐点になるでしょう。
一方の吉村知事は、「維新」という母体が足かせになります。ステップアップするには、大阪の近隣府県とも密に連携して近畿圏全体を影響下におき、地域政党という枠を超えた普遍性のある政策を打ち出せるかに懸かっています。そういう意味では、維新の「第一世代」のしがらみを超えられるかが鍵です。
新型コロナウイルスという世界的な未曾有の危機を乗り越える社会を彼らが地方から作り上げられたなら、それが“アフターコロナ”の日本全体の戦略になりえます。
レーガン大統領やクリントン大統領のように、アメリカでは州の知事から一気に大統領に上り詰めていく政治の流れがあります。日本も、コロナという前代未聞の事態を経験して、政治の新しい流れが生まれるかも知れません。