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「弁護士の論理」で真っ正面から切り込む吉村

 コロナ対応も、よく見ると2人の対応は対照的です。鈴木知事を「調整型」とするなら、吉村知事は「切り込み型」。それぞれのキャリアを背景に、政治手法は全く違います。

 鈴木知事のコロナ対策のハイライトは、なんといっても2月28日に北海道として独自の「緊急事態宣言」を出したことでしょう。ただ、私が鈴木知事の政治的なセンスを感じたのは、むしろ宣言を出した翌日。鈴木知事が総理官邸を訪れて安倍首相に会ったことです。

道独自の緊急事態宣言を出した翌日、首相官邸を訪れた北海道の鈴木直道知事(中央)(2月29日) ©️時事通信社

 官邸に単身乗り込んで官邸とのつながりをアピールできたことで、その後のコロナ対策がどれだけやりやすくなったか。道民には人気のある鈴木知事ですが、北海道のエスタブリッシュメントである道議会自民や札幌の経済界とは微妙な関係です。実際、知事選でも道議会自民は対立候補を擁立しようとしていた。それがこの官邸訪問によって、抵抗勢力になり得る道内の「反・鈴木勢力」を早い段階で抑え込めたのです。

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 もう一つ「政治巧者」だと思ったのは、4月12日に「第2波」を警戒して再び緊急事態を宣言するにあたって、札幌の秋元克広市長を巻き込んで、道と市の「緊急共同宣言」としたことです。北海道すべての中心地である札幌をないがしろにしては、何も上手くいかない。札幌市長の顔を立てつつ、自分の政策も進めているのです。

 このように、北海道がいつも最初に新しい局面に直面していながら、鈴木知事は、柔らかい人当たりでコツコツと調整しつつ政策を実現していく。歴代総理でいえば、匍匐前進しながら目標を達成していく「竹下登型」の指導者だと思います。

 一方の吉村知事は、周りに目を配りながら判断する鈴木知事とは違って、「真っ正面から切り込む」タイプ。そこまで思い切ったことができるのは、橋下氏や松井一郎市長ら「維新の第一世代」が必ず援護射撃をしてくれるという安心感があるからでしょう。

 そんな吉村知事のハイライトは、5月5日に自粛要請解除の基準を示した先述の「大阪モデル」の提示でしょう。背景には、緊急事態宣言の下で約1カ月、苦しい時間を耐え抜いた国民に対して、何の希望も示さず「宣言1カ月延長」を表明した安倍首相の無策ぶりがありました。世論には絶望感が広がっていた。有権者に近い首長らしく、そんな雰囲気を察知して、大阪からすかさず「こうすれば次の地平にいける」というビジョンを前のめりに打ちだし、全国から喝采を浴びたのです。

 ここには、弁護士出身の吉村知事らしい思考法があるように思います。訴訟対応さながらに「Aコース」「Bコース」……と、状況に合わせて対処法を提示する、論理的なわかりやすさが世論に届いた。

 真っ正面から自分の言葉で切り込んだ吉村知事のカラーと政治センスが光った場面でした。“ジジイ殺し”という側面を持ちながら、劇場型政治も演出できる。過去の指導者でいえば「小泉純一郎型」なのかも知れません