「何でも自分たちでやってしまう」日本の電機メーカーっぽさ
Pelotonのビジネス戦略として、もうひとつ非常に興味深いのが、すべて自分たちでやってしまうというサービスの品質に対するこだわりです。
ビジネスの構造を表す言葉で「垂直統合型」と「水平統合型」(水平分業型ともいう)という表現を聞いたことがあるでしょうか。
垂直統合型とは、製品の開発、生産、販売に到るまでのすべてを一社でやってしまうやり方です。パナソニック、シャープ、ソニーなど日本の名だたる電機メーカーはほとんどがこのスタイルで成長してきました。すべての工程を自社で行うことで、すべての領域で高いクオリティを維持することができ、まさに「メイド・イン・ジャパン」というブランドが確立したともいえます。
一方で、製品の核となる部分は自社で開発し、製造しますが、それ以外の部分は他社にねるというのが水平統合型です。多くの人が使用しているウィンドウズパソコンはその代表的な例です。コアとなるCPUとOSはインテルやマイクロソフトが提供し、本体のデザインは各社が、そして製造は中国や台湾の工場で行います。その方が人件費を安く抑えることができますし、現代のビジネススピードを考えると、いちいち自社で広大な工場を保有し、すべてを自社でまかなうというのは現実的には難しくなってきています。
Pelotonは垂直統合型。「何でも自分たちでやってしまえ!」という考え方です。
ユーザーが使用するフィットネスバイクを自社で開発しているのはもちろん、すべての動画コンテンツも自前で作成しますし、すべてのソフトウェアのみならず、バイクに搭載するタブレットまでもが自社開発という徹底ぶりです。
それだけではありません。ユーザー宅への配送も「Peloton」というロゴのスタイリッシュな専用のバンを使用し、自社のスタッフが行い、機材のセットアップから、ユーザーに対するレクチャーまですべて自前でやってしまいます。ルックスのいいインストラクターが自宅までやってきて、セットアップと使い方の指導をしてくれるという徹底ぶりなのです。
ビジネスの効率だけを考えるなら水平分業にした方がメリットが多いのですが、Pelotonが顧客に提供しているのは「単なるフィットネスバイクの販売」ではなく、Pelotonというまったく新しいブランドの「体験」なのです。
だからこそ、新しいフィットネスマシンが自宅に届き、セットアップが完了し、実際にワークアウトを始めるところまで、完全に演出されたストーリーが確立しているのです。
その結果、顧客推奨度を示すNPSスコアは91と全米で2位、チャーンレート(解約率)はわずか1パーセントと驚きの顧客満足度を実現しており、世界的にも注目されています。
ちなみに、デイビッド・ベッカム氏やマーク・ザッカーバーグ氏もPelotonの会員だといわれており、そういった「セレブ御用達」というイメージもPelotonには追い風になっているでしょう。