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キャバレーで牛の内臓をコンロで焼いても「威力」業務妨害

 本件において問題になるのは飲食店・銀行や役所の仕事を妨害する、「業務妨害」の類型です。そのうちコロナの危険で人を脅した部分に着目すれば「威力業務妨害」(刑法234条)が視野に入り、「コロナだ」と嘘をついたという側面に注目した場合には「偽計業務妨害」や「信用棄損」(いずれも刑法233条)が成立する余地があります。その線引きには難しい部分がありますが、コロナにかかっているからお前たちも感染する可能性があるぞ、と脅す類型はやはり威力業務妨害として検討すべきでしょう。

 「威力」は、とりあえず「人がやりたくないことを無理やりやらせたり、やりたいことを無理矢理やらせなかったりする」くらいの意味で考えてください。本件で言うならば、「俺コロナ」と言われたが故に、営業中の店舗を閉店せざるを得ず、消毒作業などを行わなければならない、というような点ですね。

 少し話がそれますが、判例は過去に「威力」について本当に様々なケースを判断しています。「デパートの食堂配膳部にシマヘビを撒き散らす行為」「キャバレーの客席で牛の内臓をコンロで焼き悪臭を放つ行為」「猫の死骸を事務机の引き出しの中に入れておき被害者に発見させる行為」「捕獲されたイルカを収容中の網のロープを切断する行為」など多岐に渡っています。

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「冗談」の範囲についての判例は……?

 では、客観的に、どの程度までは「冗談」で済ませて貰えるのか。この点判例は妨害の有無について「妨害の危険」があれば足り、実際に妨害がされることまでは必要ないとしています。実は、この点は学説からの批判も多いポイントです。

 業務が妨害される「恐れ」だけで足りるならば、たとえ冗談であろうが相当な広範囲で犯罪が成立しうることになるからです。「幅を持たせた規定にしておいて、現場の警察官がその気になれば有罪にしてしまえる」基準とも言えそうです。

 事例に引き直すと、「俺コロナにかかってる。ウソだよウソ」という発言者による悪質な冗談について、もっともらしいので不安を感じたが、実際は特段の消毒も休業などもしなかった、というケースですら有罪が導かれうる可能性があることになります。

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 どう考えてもコロナにかかっていない人、というのが存在すれば、その人による発言は業務妨害には該当しなさそうですが、コロナは無症状の人も多い。発言者の外観からはまずわかりませんから、ますます警察のさじ加減がモノを言うことになりそうです(愛知県での摘発が群を抜いて多いのは、事件の発生頻度より、そうした捜査機関の「熱心さ」によるのかもしれません)。