核ボタンを自慢したがる2人の指導者
それまでの制裁は、核・ミサイル開発につながる産業や資金の流れをターゲットにしていたが、いまや貿易妨害の様相を呈し始めた。海産物、石炭、衣類の輸出は禁止された。制裁には、アメリカ人が北朝鮮に渡航する場合は特別許可を取得しなければならないとする渡航禁止令も追加された──そのとき人道支援活動従事者たちは、自分たちの渡航理由は国務省には受け入れてもらえないことを知った。世界的な規模をもつ多国間保健機関「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(略称:グローバルファンド)」が北朝鮮でのマラリア・結核対策への資金供給を停止すると、医師たちは公衆衛生上、人道上の重大な危機が発生し、克服に数十年かかりかねないと警告した。
アメリカ国務省の推計によれば、制裁で北朝鮮の輸出の90パーセントあまりが遮断された。それに加え、北朝鮮は労働力輸出も封じられた。同国が制裁で失った交換可能通貨(ハードカレンシー)収入は全体の3分の1、すなわち10億ドルに上るとみられている。
これは大きな数字だが、状況を一変させるアクションは北朝鮮国境で起きていた。中国がそれまでにないほどの制裁を実施したのだ。
糸を引きあう各国の首脳
それまで中国政府は、ならず者のミサイルよりも北朝鮮の崩壊のほうを恐れていて、最小限の対応しかしていなかった。しかしいま、トランプは北への攻撃実施について本気で、北京は不安定になる可能性よりも戦争の可能性のほうがずっと危惧すべきであると判断したのだ。
中国は貿易を停止した。海産物と石炭が中国に輸送されなくなり、中国で働いていた何千人もの北朝鮮労働者の多くは送還された。北朝鮮との通商の玄関口となっている丹東市には、はっきりとした冷気が漂っていた。私は、丹東市にある北朝鮮料理のレストランで食事をしていたとき、夜7時半に、ディナーの最後のひと口を食べ終わるか終わらないうちに追い出された。こうした環境下では、何もかもが閉鎖されていった。
中国はアメリカに、ワシントンに軍事行動をとらせないために制裁で行動に出ているのだと示す必要があった。安定は確かに不安定よりよいが、不安定も侵攻よりはましだ。