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マッドな新アメリカ大統領に翻弄される平壌の政権

 専門家はまた、誤算が戦争につながることを懸念していた。双方の間で長年にわたって丹念に振り付けをしてきた、合図と駆け引きのデリケートなダンスを一方が誤読して、衝動的に反応してしまう可能性についてである。なにしろ、両国の首脳は合わせて7年しか政治の経験がない。そして、そのうち6年は金正恩側のものなのだ。

 誤解の生じる可能性は日増しに高まっていくように思えた。

 トランプ政権が金正恩に「ブラッディ・ノーズ(鼻血)」をくらわせる計画を企んでいる、といううわさがあった。このアイデアは、北朝鮮の核・ミサイル施設に限定的な「外科手術的攻撃(サージカルストライク)」を実施して、それによってこの若き指導者に挑発的行動を考え直させ、核プログラムの撤回に関する対話に戻らせようというものだった。

 平壌の政権は、この新アメリカ大統領をどう捉えていいのかわからなかった。彼はニクソンをまねて頭のおかしな人物を演じているのか? それとも本気なのか?

粗末な対応で右往左往

©iStock.com

 北朝鮮高官は元アメリカ政府関係者にトランプのツイートを解読してくれるように依頼し始めた。彼らは『トランプ自伝──不動産王にビジネスを学ぶ』を読んだ。『炎と怒り──トランプ政権の内幕』を読んだ。ホワイトハウス内の混沌について書かれた、賛否両論の著作である。また、アメリカの核攻撃手続きについて問い合わせた。そして、トランプが本当に核ボタンを押す権限を持つ唯一の人物なのかと訊ねた。

 金正恩政権は、トランプからの挑戦を極めて真剣に捉えていた。高官は外国の外交官や他の仲介者に、北朝鮮がもしもこのまま進んでミサイルをグアムの近くに──もしくはいっそグアムに──落とそうとしたらどうなると思うかと訊ね始めた。トランプはどう反応するだろうか? 彼らには限度がどこなのかよくわからなかったのだ。

 一方、アメリカ連邦議会議事堂を標的にした北朝鮮のミサイルとアメリカ国旗が描かれた、「北朝鮮の応答」と題したポスターが平壌中に貼り出された。

 2017年が2018年になり、核ボタンを自慢したがる2人の大胆で比較的経験の浅い指導者たち率いる、敵対の歴史をもつ二国のせいで、朝鮮半島の壊れやすい平和は風前の灯火のように思われた。

金正恩の実像 世界を翻弄する独裁者

アンナ・ファイフィールド ,高取 芳彦 ,廣幡 晴菜

扶桑社

2020年4月30日 発売

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