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妻は「あなただけ狙い撃ちになってる気がする」と。
店には川上さん夫妻と、ほかの従業員も働いている。しかしその客がクレームをつける相手は、川上さんに限られていた。
「妻は、そのことがわかっていました。いつも横で見ているわけですから、『あなただけ狙い撃ちになってる気がする』と言っていましたね。
袋への入れ方が悪いのであれば申し訳ないと思うんですけど、『謝り方が悪い』と言うんです。何か、僕より上の存在でありたい感じというか、とにかく上から『お前! お前! 接客がダメだ』と何度も言われて。
レジカウンター越しに顔を近づけてきて、威嚇されるようなときもありました。どう対処していいのかわからないし、帰ってもらえる雰囲気でもないので、『それで気が済むなら、もう殴って下さい』っていう気持ちになりましたよ」
ある日、その客がおでんを注文した。汁がこぼれないように、容器を袋の中央にまっすぐ入れた瞬間、
「その入れ方、おかしいじゃないか」
いきなり罵声が飛んだ。何が起きたのかわからない気持ちと、「ああ、またか」という気持ちが半々だった。とりあえず謝ったが、罵声は続いた。レジの後ろには、次の客が並んでいる。放心状態になった川上さんは、こう言った。
「じゃあ、ほかのお店に行って下さい。私どものサービスに足りない部分があるので、ほかのお店を使って頂けませんか」