2月26日、多くの人々が集まるスポーツや文化イベントの中止や延期を政府が要請してからすでに3か月近くが経過した。大小にかかわらずイベントの再開がまだまだ難しい状況の中で、会場主やイベント主催者、エンターテインメントの演者やスタッフなどの関係者は経済的にも大きなダメージを受けている。
庶民が長きにわたって愛してきた伝統芸能である落語も、国立演芸場や鈴本演芸場をはじめ、主要な寄席はクローズ。ホール落語もほぼすべての公演が中止となり、落語家たちも、芸を披露する場を奪われてしまった。
師匠である桂枝雀ゆずりの破天荒な芸風で知られ、格闘技を思わせる派手なアクションと止まらないマシンガントークで“上方落語の爆笑王”の異名をとる桂雀々はこう語る。
「おおいに困ってますよ。落語家が落語出来ないなんて、これほど辛いものはないでしょう。困ってない落語家なんて一人もいないんじゃないかな。今年は還暦記念の落語会を全国でやる予定でしたが、いくつもなくなってしまって……ま、これはもう仕方がない。でも、今年二ツ目になった、真打になったという若手は、一生に一度のお祝いの会が次々中止や延期になっていくのが可哀そうで……。今は大人しく家にいます。三食ご飯食べて、Youtube で名人の落語聴いたり、昔の野球の珍プレーとか観たり……。人に言えるほど面白い生活はしてません。地味なもんです」
ところがここに来て、落語界は新しい“小屋”を手に入れつつある。これまでもYouTubeにはいくつもの落語動画が上がっていたが、コロナ禍を受けて落語家が1週間連続で落語をライブ配信したり、WEB会議ツールZoomを駆使しての落語会開催など、若手から中堅、ベテランまで積極的にオンラインでのライブ配信に挑みはじめたのだ。
巣ごもりゴールデンウィーク期間中の5月2日、3日に行われた文春落語オンラインでは人気落語家・柳家喬太郎が登場。配信ツールの関係で両日ともに1000人の定員となったが、1100円のチケットはいずれも完売、地方はもちろん、海外でもこの配信を楽しんだ方もいたようだ。
もちろん、戸惑いはある。大学2年で笑福亭鶴瓶師匠に弟子入りし、古典落語と真摯に向き合いながら演劇など幅広い分野で活動する笑福亭べ瓶はこう語る。
「オンラインは端正な芸風の方はいいと思います。ただ、僕はその時その時のお客様の空気で、マクラはもちろん落語の中でもセリフや仕草を変えてしまう、当たって砕けろタイプなので、オンラインに向いている芸風ではないと思うんです。でも実は配信、やってます。ゲーム実況動画ですけどね(笑)」