昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

ネットカフェ難民の日常に迫る――誤魔化し続けた危機感の先にある暮らしの実態

『年収100万円で生きる-格差都市・東京の肉声-』より#1

 仕事の内容は穴掘り、解体、道路工事とハードな内容だったが、体を使う仕事には自信があった。初心者ながら月に30万円以上を稼ぎ、3年で借金を完済した。

「解放感が凄かったですよ! それまで我慢に我慢を重ねていましたからね。そこからは、お金が自由に使えるようになって、仕事で技術も身につけたし、自信もついた。気が大きくなったからか、給料をもらえば派手に使って、貯金なんてしませんでした」

「明日何とかすればいい」――誤魔化され続ける危機感

 風俗にスマートフォンゲームと、憂さ晴らしをするかのように無駄遣いを繰り返す。しかし、転落は頂点に立った瞬間から始まる。真冬のある日、工期に追われて殺気立った現場でバッタリ倒れてしまったのだ。

「疲れが溜まっていたせいか、不摂生な生活のせいか、不整脈が出て胸が苦しくなり、その場で倒れて死ぬかと思いました」

©iStock.com

 2週間の入院から寮へ戻ると、会社からは解雇を告げられた。上司からは「勤務態度が悪かったのも大きな原因」とも。

「まぁ、ちょっと調子に乗りすぎていたのかもしれませんね。寮を出てもアパートを借りることはできず、安く泊まれるネットカフェを探しまわり、ここにたどり着きました。実は一度、難民が多い新宿・歌舞伎町の安いネットカフェを利用したことがあります。住んでいる連中が個室の仕切り板を下駄箱代わりに使っているんですが、その靴のにおいがひどいんです。ちょうど頭の上から足のにおいが降ってくるので、吐きそうになる。なかには女物のハイヒールもあり、女性の利用者もいました。家出娘も利用しているそうで、ここで援助交際をしているという噂もあった。怖いので使うのをやめました」

週1万円の家賃で保たれる日常

 現在はネットの日雇いサイトに登録し倉庫整理などをしているが、ゆっくり休めておらず体調には波がある。しっかり働けても、月収は11万~13万円ほど。週給で週1万円の“家賃”を納めている。

「家を借りたくても、年収100万円程度では、家賃を払い続けられるかわかりません。そもそも、入居時の保証人もいない。お金がないので飯はカップ麺などでしのいでいますが、体のためにはやめないといけない。でも、どんなに必死にもがいても、ネカフェに戻ると似たような連中が多いから『明日なんとかすればいいや』と思ってしまうんです」

 山北さんが浮世の辛さから逃れ、薄暗く狭い空間で丸くなるのは、すべてを最初からやり直したいという胎内回帰願望の表れなのだろうか。

この記事の写真(4枚)

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー