日本ではバブルがはじけて以来、ワーキングプアと呼ばれる年収200万円未満の低所得層の人口が増え続けている。日本には現在でも約1000万人以上のワーキングプア層がいるが、これは日本の労働人口の約4分の1にも及ぶ。所得が低ければ生活水準が低下するのは当然のことだが、「貧すれば鈍する」ということわざの通り、貧困は人々のモラルを劣化させる大きな原因のひとつにもなっている。

 日刊SPA!にて1000万PVを叩き出した「年収100万円」シリーズを書籍化。それに伴ってジャーナリストの吉川ばんびが各章のコラム、第5章を書き下ろしたまとめた新書『年収100万円で生きる-格差都市・東京の肉声-』(扶桑社)よりインタビューを抜粋し、現代日本に巣食う貧困の実態を見る。

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マスク転売するしかなかった……「新型コロナで失職した男」
有田博人さん(仮名・44歳)男性
出身/東京都 最終学歴/専門学校 居住地/神奈川県 居住形態/社員寮 年収/300万円 職業/ホテル従業員 雇用形態/正社員 婚姻状況/未婚

本業が傾いたから、転売で稼ぐしかない

 2019年11月、中国で発生した新型コロナウイルスの影響が凄まじい勢いで拡大し、世界保健機関(WHO)はパンデミックを宣言。2020年4月半ば時点で感染者が160万人、死者数は世界で10万人を超えても増加し続け、世界中にパニックが広がっている。

 この影響でトイレットペーパーや食品の買い占め行為も起きるなか、価格が急騰し世界規模で高額転売が行われているものがある。マスクだ。

 量産態勢にあると報道されるものの、いまだ入手しにくい状況が続くマスクは、転売ビジネスで生計を立てる通称「転売屋」によって、以前のおよそ10倍以上の価格で取引されている。さらに、市民に尽力すべき立場の消防署員や県議会議員までもが転売に手を染め、社会問題に発展。これを受け2020年3月15日、政府はマスクの高額転売を禁止する政令を施行した。

「法律で禁じても、必ず抜け穴はある。転売屋はパニックに乗じて、次の策を練っているはず。私もすでに別の転売で利益を上げていますよ」

©iStock.com

 そう話すのは、マスク転売で300万円近くを売り上げた有田博人さん(仮名・44歳)。実は転売は本職ではなく、副業なのだという。

「本職は神奈川県にあるホテルの従業員です。中国人客をあてにして昨年リニューアルしたばかりなのですが、今年1月に中国政府が海外への団体旅行を禁止すると、4月までの予約がすべてキャンセルになりました。事態の収束が見えないなかで資金繰りに詰まり、ホテルの閉館が決まりました。客もいないし、今は副業に精を出しています」

こんなにボロイ商売があるのか

 すでに大半の従業員は解雇となっており、有田さんの出勤日も残り数日だという。

「給料は1か月も未払いだし、寮も出なければならない。今、本当にお金が必要なんです。まだまだ稼いで、退職金にするつもりです」

 有田さんが転売ビジネスを始めたのは東日本大震災からだった。出入りの業者が「売れ残ったから」とホテルに置いていったアニメグッズを試しにオークションサイトへ出品したところ、予想外の高額で売れた。

「ホテル周辺を舞台にしたアニメのPR用に制作された限定グッズで、ぬいぐるみは1体3万円で売れました。ほかにも、ボールペンが1本2000円、未使用のパスケースは8000円で売れ、ちょっとした小遣いになりました。こんなボロい商売があるのかと、目からうろこでしたね」