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「俺が経済を回してやっているんです」マスク転売男が胸にする謎の正義感とは?

『年収100万円で生きる-格差都市・東京の肉声-』より#3

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 有田さんが転売のうまみに目覚めるなか、ホテルに近い火山の噴火警戒レベルが引き上げられ、ホテルの運営が苦しくなる。

「勤続手当5000円がなくなり、今度はホテルにあった不用品をオークションサイトで転売することにしたんです。廃棄予定の土産菓子のまとめ売りです。賞味期限ギリギリであることを明記したうえで出品しましたが、こちらも売れ行き好調。以来、バックヤードで備品や余剰在庫を見つけては転売するようになりました。泥棒? 賃金カットが悪いんですよ。現物支給、という感じですね」

中国人へマスク転売

※写真はイメージです ©iStock.com

 災害の影響で経営が思わしくなかったホテルも、ビザの緩和やLCCの増加により中国人観光客が団体で押し寄せるようになり、経営も上向くようになる。

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「日韓関係の悪化で韓国人観光客が激減するなか、中国からの団体客は頼みの綱でした。欧米人観光客も増えましたが、爆買い中国人たちが使う金額はケタ違いでした」

 その彼らが、2020年1月に入ると「土産にしたい」とマスクを探し求めるようになったという。

「フロントにいると、頻繁に『マスクはどこで買えるのか』と聞かれました。さらにテレビでも『中国でマスク不足』というニュースを目にし、これは転売のチャンスだと興奮したのを覚えています」

 さっそく上司に許可を取り、業者からマスクを1枚4円で購入するとフロントに並べたという有田さん。中国人観光客に50枚入りを1箱800円で販売すると、おもしろいように売れた。責任者がいない日は、レジを通さずに現金を受け取り、そのままポケットにねじ込んだという。

「退職金」代わり? 1時間で70万円を売り上げた

「中国語でポップをつけたところ、あっという間に100箱が売り切れました。その勢いを見て嬉しい半面、『花粉症シーズンを目前に国内のマスクが枯渇するのでは』と思い、日本人にも転売することを思いつきました。コロナの影響がここまで大きくなるなんて、当時は予想していませんでした」

 すぐに業者を呼び「現金で買うからもっと売ってくれ」と虎の子の30万円を握らせ、買えるだけ買いこんだ。自室を倉庫代わりにしようと寮に納入させると、6畳のワンルームはあっという間に段ボール箱で埋まった。