「仕事の合間にオークションサイトとフリマアプリを調査し、売りどきを探りました。春節の頃には翌月以降のキャンセルが相次いでいて、うちのホテルもいよいよ……という状況に。転売で利益を得て生活資金を稼ごうと決心を固めました。試しにオークションサイトへ出品したところ、1時間で70万円近くを売り上げました。マネージャーからは『こんなときこそ仕事を頑張って』と注意されましたが、退職金がもらえるかもわからないのに、やる気が出るわけがない。仕事をサボりどんどん仕入れて、どんどん売りさばきました」
高額でも買う人がいるのが、悪い
2020年2月になると、マスクの高額転売に対して、SNSを中心に批判の声が広がったが、有田さんは気にも留めない。
「モノの価格は需給で決まる。法外な値段でも買う客がマスクの値段を釣り上げていたのでは? それに、お金儲けのチャンスが目の前に転がっているのに、取りにいかないほうがおかしいですよ。買うのは老人が多いですね。老人は貯金も多いんでしょ? お金が余っているから、高くても買うんですよ。俺が経済を回してやっているんです」
フリマアプリ各社が高額出品に対して設定価格を引き下げるなど自主規制を強化し、3月上旬には高額出品を削除し始めたが、有田さんはこれまでにマスク転売だけで300万円超を売り上げていた。3月15日、マスクの高額転売が政令で禁止されフリマアプリ、オークションサイトからマスクの出品が消えた。違反は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科される厳しい内容だが、有田さんの顔に焦りの色はない。
「これまで稼いだお金は自分の老後資金にもできます。オークション運営会社は手数料を儲け、客はマスクが手に入った。まさに『三方よし』でしょう。フリマアプリでは、マスクを“おまけ”につけて販売する裏技も横行しています。もちろん、自分もやっていますよ。まぁ、今後、マスクがダメなら、ほかのもので儲ければいいだけ。消毒用のアルコールジェルも大量に仕入れていたので、今はそちらにシフトしています。法令施行後も通販サイトでは相変わらず高値で販売されていますが、転売とそうでないものは、どうやって区別しているんですかね?」
現在、有田さんは段ボール数箱分のマスクとアルコールジェルとともに転居の準備中だ。
「自分はサービス業しか知らず、今さら他業界への転職は難しい。そして、コロナの影響でどこも経営は苦しい状況です。再就職先を探すのは難しいでしょう。転売のノウハウはわかったので、このコロナ不況を図太く生きてやろうと思っています」
コロナで仕事を失う人が世界中に続出している。有田さんのように自暴自棄になり、不法行為に手を染めてしまう人もいるだろう。これも心の貧困の弊害だが、決して同情してはいけない。