〈何ら落度なく判断能力が低下している老人等を狙い撃ちにし、個人的な生活資金を騙し取るもので有って、誠に卑劣〉
〈事件行為発覚、関与が明らかとなった時には、「理由の如何を問わず破門・絶縁等、厳重なる処分を科す事とする」〉
このような通知を傘下団体に出したのは、山口組、住吉会に次ぐ規模の指定暴力団「稲川会」だ。
政府から一律10万円が支給される「特別給付金」をめぐる詐欺、手口を変えて繰り返される振り込め詐欺などの「特殊詐欺」事件には、多くの暴力団が関与していることが次々と判明し、警察と犯行グループの間でイタチごっこが続いている。その最中に出された今回の書面だけに、警察や暴力団幹部の間で様々な解釈、憶測が飛び交っている。
関与が分かれば「厳しい処分」
稲川会最高幹部の名前で出された今回の「『稲川会規約』総本部通知」は、今年5月付。稲川会傘下の2次団体などの各事務所に掲示し、末端の組員にまで周知することを求めている。
この通知では、〈「振込詐欺等の特殊詐欺」に及ぶ者が後を絶たず現れている。(略)特にこの種事犯に及ぶ事はもっての他である〉と指摘。さらに、〈特殊詐欺への関与を絶対に無き様、再度厳禁する〉と命じている。冒頭で紹介したように、関与が分かれば破門などの厳しい処分とする内容だ。
暴力団最高幹部が自らの組員の違法行為への関与を禁じるという、とても額面通りには受け取れない記述が続く。一体何のために、このような“不自然”な通知が出されたのか。
「その総本部通知はたしかに事務所に貼ってある。だがこれを読んで『特殊詐欺をやめよう』なんて誰も考えない。いまは重要なシノギ(資金獲得活動)だから、(稲川会傘下組織の)どこも特殊詐欺をやっている。この通知は要するに、事件が発覚した際のトップの責任逃れだ」
このように解説するのは、稲川会の現役幹部だ。
「稲川会の若い衆の特殊詐欺事件が摘発され、前会長が『カネを返せ』という訴訟を起こされている。今後考えられる訴訟対策として、アリバイ作りのような意味で通知を出したのではないか」(同前)
稲川会幹部が言う「前の会長の訴訟」とは、稲川会系組員らによる特殊詐欺事件が摘発されて以降、被害者が起こした損害賠償を求める民事訴訟のことを指す。東京高裁は今年3月、稲川会元会長の清田次郎に対して暴力団対策法上の使用者責任を認めて、約1600万円の損害賠償を命じる判決を下している。