被害者が民事訴訟を起こす元となった刑事事件では、稲川会系組員が摘発されるなどしたが、清田にまで捜査が及ぶことはなかった。暴力団が特殊詐欺に関与する場合、指示役まで突き上げ捜査がたどり着かないように工作が施されているのだ。
「現金の受け取りには、末端の受け子に取りに行かせる。その受け子を指示する中間的な役割の者たちがいて、さらにその上と続き、3~4人を通じて指示が出される。お互いに面識のあるのは直接の接触がある者同士だけ。1人またぐと分からないから一番上のヤクザは誰なのか分からないようになっている」(同前)
しかし、暴対法では指定暴力団の組員が暴力団の威力を用いて活動資金を獲得した場合、その暴力団の代表者が賠償責任を負うと規定している。暴力団トップは傘下組織からの上納金を吸い上げるシステムで利益を享受する立場である。つまり、当時会長であった清田が賠償責任を負うべきという訳だ。
「総本部通知には〈再度厳禁する〉とも書いてあるが、以前に同様の通知があった記憶が自分にはない。『我々トップは以前から特殊詐欺はダメだと注意して来た』と強調したいのだろう」(同前)
6代目山口組・高山若頭出所後の抗争でも…
さらに、逮捕と破門の関係について、別の稲川会系幹部が証言する。
「トップに迷惑がかからないように、特殊詐欺事件で逮捕されたら破門や絶縁になるのは、これまでも行われてきたこと。実際に破門状、絶縁状が出されている。ただし逮捕後に破門したのでは意味がないので、逮捕日からある程度の期間を遡って書面にする。そうやって、『逮捕されたときはすでに破門済みなので無関係』『事件前に別の不祥事を起こして破門された不届き者』という形にする訳だ」
実際、そのような「破門状」の使い方は業界の常套手段。国内最大の指定暴力団である「6代目山口組」ナンバー2、若頭の高山清司が刑務所を出所した前後に続発した抗争でも似たケースはあった。昨年11月に元山口組系幹部、朝比奈久徳が自動小銃「M16」を尼崎市の街中で乱射し、神戸山口組幹部の古川恵一を射殺した事件だ。事件後、朝比奈が2018年12月に山口組傘下竹中組を破門されていたという「破門状」が出回ったのだ。警察幹部は「事後に出された可能性が高い」とみている。
他の組でも表向き“厳禁”
「特殊詐欺」が“厳禁”とされるのは、6代目山口組も同様だという。同組幹部が証言する。
「うちでも、何度も『(特殊)詐欺はやるな』と通達が出ている。しかし、『あれやるな』『これもやるな』と言われても『はい、そうします』ということにはならない。