たとえば、覚醒剤もダメということにもなっている。そもそも山口組では3代目(組長・田岡一雄)の時代から、『麻薬撲滅運動』を標榜していたことがあった。そんな運動をやったところで、シャブを扱わないことはないし、シャブで逮捕された者は後を絶たない。同じように山口組の枝(2次団体)では特殊詐欺をやっていないところはないのではないか」
ちなみに、暴力団トップの責任を追及する使用者責任をめぐる訴訟では、2019年12月に東京高裁で住吉会会長の関功と前会長の福田晴瞭の使用者責任が認められ約600万円の賠償が命じられ、2審の高裁段階で使用者責任を認めた初判断となった。2020年3月の稲川会元会長の清田の判決は、この判決の流れを踏襲して賠償命令が出されたとみられる。
その結果、稲川会だけでなく、他の各組織の暴力団幹部の間で、「末端の組員の犯行でもトップへの賠償命令が下される」という危機感が共有されたのだ。
警察は「大歓迎」の一方で…
警察は、稲川会の「総本部通知」をどのようにみているのか。警察庁幹部は次のように突き放した。
「やはり被害金返還を求める訴訟への対策だろう。しかし、こんな書面を作成して通知したところで、トップが責任を逃れるのに役立つことはない。証拠能力はゼロに等しい。裁判所を説得する材料には全くならない」
別の警察庁幹部は、「本当に稲川会が特殊詐欺から一切手を引いてくれるのであれば大歓迎で喜ばしい」と皮肉交じりに論評する。
「組織の末端組員を破門や絶縁にするだけなら単なるトカゲの尻尾切り。本当に特殊詐欺を止めたいなら、傘下組織から逮捕者が出たら、稲川会が責任を持って速やかに被害金を弁済するとか、トップが責任を取って辞任するとか、そのくらい思い切った通知を出さないと意味がない」
暴対法が1992年に施行されたのに加え、2011年までに全国で整備された暴力団排除条例によってシノギは先細りの一方だ。暴力団にとって重要なシノギとなった特殊詐欺をめぐる警察との攻防はしばらく続きそうだ。(敬称略)