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「お嬢、きょうはイヤにきれいに見える」と、美空ひばりにキス

「カネさんがまた本を出した。いったいあの人はもの書きなのか、野球評論家なのか、本職はなんだろう」と長嶋茂雄が推薦文で述べる通り、これはカネやんにとって3冊目の著書。過去2冊で幼少時からの思い出話や持論を好き放題に書いているのに比べ、対談ともなるとさすがのカネやんといえどもやや身構えていたようで「触れてもらいたくないことを、いきなり切り出してはめちゃくちゃ。最初から決め球を投げて、ピッチングを苦しくするのと同じで、インタビューも頭を使わなくてはならない」とそれなりに気を遣っている様子なのだ。

昭和46年発行の対談本『失礼!金田です』(報知新聞社刊)

 しかしそこは「天皇」の異名を取った400勝男。一世を風靡したプロボウラー中山律子に「一番先に聞きたいそのことを、一番最後におそるおそる」と遠慮しつつも生理について尋ねたり、歌手の藤圭子(当時18歳)に「自分の顔いいと思う?」と悪気もなく聞いたりと本領をいかんなく発揮する。デザイナー森英恵の回では「女性はハダカのときが一番美しい」「そのハダカの上にものを着せようとする人など、知るわけがない」と対談前の印象を語り、そのくせ会うなり森からネクタイをプレゼントされ、体格と顔を褒められると「ヒップのあたりがムズムズして、どういう顔をしたらいいのか、どうお答え申し上げたらいいのやら」と恥ずかしがり、返礼にネクタイを4本も購入してしまう。さらにカネやんがファンだと言う作家・山岡荘八の回では、作中のラブシーンについて「即物的なのは読んでどうということはないのに、先生のを読むと自然にズボンのあたりが突っ張ってしまって……」と告白。カネやんの純な一面が垣間見える。

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 驚くべきは「この対談の謝礼は、現金では失礼なので、みんなスコッチ・ウイスキー」という点。いやそこは現金でしょ!と思うが誰だってカネやんからウイスキーを差し出されたら貰わざるを得ない。そんな調子だから昔から「妹みたいな存在」で、昭和43年発売のシングル『男の腕』で曲中セリフにも参加している大スター・美空ひばりとの対談では「会う前の宴席でいささかピッチをあげすぎてしまった」挙句、酔っぱらって約束の時間に15分も遅刻。さらには「お嬢、きょうはイヤにきれいに見える。酔ってるせいかな!」と耳元にキスまでしてしまう。これがスポーツ新聞に載ったのだからおおらかな時代である。