“普通の社員”の実力が可視化されてしまう
こうした前提で会社は経営され、人事制度や報酬体系もこの法則の中で、誰かより多少高かったり、低かったりという調整がなされてきた。では、ポスト・コロナ時代にも、この法則は継続できるのだろうか。
おそらく多くの会社では、組織の形態が大きく変化することが予想される。これまでは何となく社員全員が同じオフィスというハコに収まり、もたれあって仕事をおこなってきたのが、業務のうちの多くがテレワーク化されることで、会社と社員の関係が情報通信端末で結ばれた1対1のデジタルなものに変わっていくからだ。
こうしたデジタル組織になると、一番クローズアップされるのが、「262の法則」の中での中間体、つまり組織全体の6割を占めている“普通の社員”たちの処遇である。なぜなら、なんとなく「ふつう」と思われていた社員たちの実力が、デジタル化された組織のもとでは容易に測定できるようになってしまうからだ。
5割の社員が淘汰される時代が来る?
これまでのアナログ組織の中では見えてこなかった中間体の社員たちの能力が露わになることで、生き残ることができる社員と、ただ会社に寄生しているだけで、実はさほど能力もない社員とが冷酷に選別されることになるだろう。
つまり、「262の法則」は「230の法則」になるということだ。6割の普通の社員の中で、生き残るのは半分、すなわち“3割部分”だけだ。この3割を徹底的に鍛え上げて、底上げする。そして残りの3割は、もともとしかたなく養っていた2割のダメ社員もろとも退場させられるのが、これからの会社組織なのだ。もちろん、ダメ社員をはじめ、淘汰される社員たちがちんたら行っていた仕事のすべてはITやAIに代替される。
会社は現在の5割の人員で回るはずなのだ。そうすれば日本の労働生産性は飛躍的に向上するだろう。日本の労働生産性はOECD36か国中21位。なんとアイルランドの半分だ。G7に至っては最下位だ。この労働生産性の低さを論じる際に、日本の会社に残業が多いことを問題視する向きがあるが、おそらく原因はそれだけではない。日本企業はアナログ的組織の中に多くの無駄を抱えているのだ。
結果的に、これからのデジタル組織とはどのような形態になるのだろうか。おそらく、既存の組織から中間管理職の多くが淘汰されていくと思われる。なぜなら、1対1で社員と会社がつながれば、社員は一つの会社に従属する立場から、複数の会社と業務委託契約を締結する個人事業主的な存在に変わっていくからだ。すると、これらを取りまとめ、わかりやすく整理して会社の上層部に説明するような、調整を主な仕事とする中間管理職的な役割というのは、ごく少数でかまわないということになるのだ。